相続はある日突然降りかかります。都内に多くの不動産を保有する資産家の父親が亡くなった結果、後妻、父親と養子縁組をしている長男の妻、すでに亡くなっている次男の代襲相続人の法定代理人…などなど、他人が多く入り混じり、大混乱に陥ったケースを紹介します。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに解説します。

「あんな対応をするなら、財産は渡したくない!」

相談を受けた筆者は、高橋家の全財産の評価と具体的な分割案を提示するよう提案・実行しました。

 

明らかになった財産評価に基づき、資料をつけたうえで遺産分割の案を全員と共有しました。その後、次男の妻の希望を尊重しつつ、三男、長女と法定割合に沿って遺産を分割し、残りの資産を継母と長男で分けるように提案しました。

 

 

継母は配偶者の税額軽減の特例により、本来なら資産の半分まで無税で相続できますが、このケースでは二次相続を見据え、自宅以外の不動産を養子縁組している長男夫婦が相続するなどして割合を増やし、二次相続時の負担を減らせるように調整しようと考えました。

 

しかし、次男の妻の態度は極めて強硬で、なかなか結論を出さないばかりか、次々と異なる要求を出してくるなどしたため、筆者は何度も計算書や提案書を作り直して説明することになりました。

 

また、次男の妻はほかの相続人たちを信頼しておらず、直接話したくないの姿勢を崩しません。一方、それは高橋家のほかの相続人たちも同様であり、できることなら顔を合わせたくなく、なかには「あんな対応をするなら、高橋家の財産は渡したくない」とはっきり口にする相続人も出てきたため、双方の橋渡し役として、粘り強い対応が求められました。

資産状況を共有し、感情に配慮したことで協議が完結

次男の妻以外の相続人の意見はほぼまとまっており、意義を唱える人はありませんでした。そのため、みんなが次男の妻がほどほどのところで折り合ってくることを願っていたのですが、次男の妻は納得しないうちは印鑑を押さないという姿勢を貫いたため、なかなか分割協議の着地点が見えません。そのため、納税資金としての土地の売却手続きも進みません。

 

そこで、ほかの相続人には不本意ではありましたが、次男の妻の希望を受け入れていくことを了解してもらい、法定割合より多めに分けること提案したところ、ようやく納得してもらうことができました。それにより、不動産を多く取得する後妻や長男が代償金を支払うとし、遺産分割協議書の調印を終えることができました。

 

先が見えない話し合いにうんざりしていた三男からは、申告期限に余裕を持った解決ができたことについて、筆者の事務所に足を運んでまで感謝の言葉を伝えてもらったほか、次男の妻からも、いい結果になったとのお礼状を受け取り、相続人それぞれの立場で納得されたようで、かかわったスタッフ一同も胸をなでおろしました。

 

今回のように、継母・相続人の養子となった長男の妻・亡き次男の妻といった、他人が多く関係してくる相続は、揉めるケースが少なくありません。そもそも、次男の妻には結婚時に被相続人から強硬な反対を受けたという背景もあり、長年の恨みや感情の行き違いがありました。そのため、ほかの相続人を信じられずに疑心暗鬼・攻撃的になり、そんな対応に腹を立てたほかの相続人が、財産を渡したくないといいはじめるなど、問題は実に根深かったのです。

 

そのような状況にありつつも期限内に話し合いが決着した理由として、まず挙げられるのは、早めに財産評価を出し、それに基づく資料などをオープンなものとして全員と共有したことがあります。財産は隠せるものではないということを相続人全員に説明し、資産状況を明らかにしたことが、解決を速やかなものにしました。

 

そして、相続人個々に対し粘り強く説明をしたことも重要です。長年のわだかまりがある人々が一堂に会すると、どうしても感情的になりやすく、話もスムーズには進みにくくいのです。そのため、話は別々に行うのが効率的だといえます。

 

そしてなにより一番の成果は、こじれた話し合いにもかかわらず、裁判にならずに解決できたことです。それぞれが納得のうえ期限前に遺産分割協議が完了したことで、法的な優遇措置も漏らさず活用することができました。

 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

曽根 惠子

株式会社夢相続代表取締役

公認不動産コンサルティングマスター

相続対策専門士

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

 

 

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本記事は、株式会社夢相続が運営80代するサイトに掲載された相談事例を転載・再編集したものです。

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