社員のプライベートに踏み込む問題…解決策は?
新型コロナ危機への対応で、各社がもっとも苦慮したのは帰省、食事会といった社員のプライベートな部分への対策の行使ではないだろうか。
役員や幹部に対してならば、会社の意思として「会食禁止」「出張禁止」「旅行禁止」と通達することができないわけではない。
役員、幹部は一般従業員よりも多くの責任を負っている。会社が「感染予防のため」とプライベートに踏み込んでも、本人たちは納得する。また、役員、幹部であれば賢明な判断をするはずだし、それ相応の思慮深さを持っているだろうから自ら律するだろう。
問題は特に若い従業員に対して、会社が「帰省するな」「合コンに行くな」とは言えないことだ。けれども、会社としてはPCR検査の陽性者が出るのは困る。本人だけでなく、周りの濃厚接触者を含めて2週間の隔離になるからだ。
では、トヨタの危機管理人たちはプライベートに踏み込む問題をどういうふうに解決したのか。
対策本部の座長を務めた朝倉正司は言う。
「会社からの文書で、帰省しちゃいかん、外出禁止なんてことは言えないんです。従業員にとってみれば、『何で会社にそんなこと言われなければいかんのか』と思う人間もいるからです。どこの会社でも、プライベートに踏み込むことはできないんですよ。
ただ、現実的には、帰省してもいいけど、感染されては周りが困る。工場ですから、共同作業ですから、濃厚接触者も多い。うちでも感染者は出ています。だからといって感染者本人を追及することはしません。誰だって、いつ感染するかわからないんですから。
私がやっているのは逃げかもしれんけれど、『オレが本部長だから、行くなと言うんじゃないぞ。1人の先輩としてのアドバイスだからな。できれば、今のところは夜の街は控えておけよ』。
1人の先輩としてアドバイスするしかない。あと、若い者が言うことを聞くのは、現場のおやじ(組長)なんですよ。現場のおやじとか兄貴が部下に、『お前、今のところはやめとけ』と言うしかないんですよ。
データを見ると、クラスター感染が出ているのは夜の街と宴会です。パチンコ屋さんや映画館は出てないんですよ。だからといって、行けと言ってるわけじゃないけれど、何でもかんでもダメとは言えません」
朝倉とともに危機管理をやっている尾上恭吾(TPS本部副本部長)もまた「この部分がいちばん対応が難しい」と言う。
「優等生的な答えとしては『みんな、トヨタマンらしい行動をしましょうね』でしょう。でも、それでは伝わらないかもしれません。しかし、仲のいい上司が親身になって、『今は我慢して』とアドバイスするしかありません。
仲間を褒めるわけじゃないけれど、うちの会社では5月連休の時も、帰省しないで寮の部屋にじっとしている若い人が多かったんです。
私の反省としては、帰省しなかった、夜の街に行かなかった若い人に対して、何かしら手当てをしなきゃいけなかったな、と。
ただ、宴会するわけにいかんでしょう。改善するとしたら、帰省しなかった人、夜の街へ行かなかった人に対して、先輩として自腹でテイクアウトの食事をおごるとか、そんなところですか。そういうことをしなきゃいけないですね。ここは考えどころです」
野地秩嘉
ノンフィクション作家