2020年、新型コロナの感染拡大で世界の自動車産業も大きな打撃を受けた。ほぼすべての自動車メーカーが巨額赤字を計上するなか、トヨタ自動車は2020年4月~6月期の連結決算(国際会計基準)では、当然のように純利益1588億円の黒字を叩き出した。しかも、2021年3月期の業績見通しは連結純利益1兆9000億円と上方修正して、急回復を遂げる予想だ。トヨタ自動車はいったい何を行ったのか、そして命運を分けたものは何だったのかを連載で明らかにする。本連載は野地秩嘉著『トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力』(プレジデント社)より一部を抜粋し、再編集したものです。

社員7万人、現場には10万人…「三密」をどう避ける?

対策会議で討議に時間がかかるのは、振替生産をするかしないか、やるならばどの工場に持っていくか、物流のラインは確保できるのかといったことだった。生産に直結する問題が第一だが、むろんそれだけではない。

 

災害であれば、事後は復旧するだけだ。ただし、新型コロナ危機に際しては「三密」の回避といった、これまでの危機にはない作業体制を考えなくてはならなかった。

 

トヨタが行った生産現場での新型コロナ危機対応を次に挙げておく。

 

体温チェックは朝と夕方の2回。体温の情報は「見える化」するという。(※画像はイメージです/PIXTA)
体温チェックは朝と夕方の2回。体温の情報は「見える化」するという。(※画像はイメージです/PIXTA)

 

なお、トヨタの国内従業員の総数は約7万2000人。このうち、生産現場にいる技能職は4万3000人、事務部門の事技職は1万5000人で、事務部門の人々をサポートする業務職が4000人、加えて、課長級以上の基幹職・幹部職が8500人となっている(2020年8月現在)。

 

以上に加えて、生産現場、事務の現場では協力会社から出向している人間、アルバイトがいる。すべてを合わせれば10万人に欠ける人数が全国のトヨタ工場、事業所で働いていることになる。

 

A すべての工場において、三密にならないような作業体制を取る。工程や作業によって違いはあるけれど、工程間に間仕切りを入れてソーシャルディスタンスを保って作業する。マスクもしくはフェイスシールドを着用する。

 

B 食堂、移動用のバスなどの共用エリアでは毎日、何度も消毒を実施する。何度も消毒している様子を見た作業者は「徹底しているな」と感じるので、感染予防の意識を向上させる役目もある。だから、何度も消毒をする。

 

C 体温チェックは朝と夕方の2回。体温の情報は「見える化」する。体調管理は標準作業のひとつ。

 

D 工場の勤務は「2直」(直(ちょく)とはシフトを組んだ勤務体制のこと)が基本だ。1直と2直の作業者が交代時間に接触する機会を減らすために、2直の開始時間を30分、遅らせる。ただし、永続的にではなく、新型コロナ危機が収束したら、元に戻す。

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トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力

トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力

野地 秩嘉

プレジデント社

コロナ禍でもトヨタが「最速復活」できた理由とは? 新型コロナの蔓延で自動車産業も大きな打撃を受けた―。 ほぼすべての自動車メーカーが巨額赤字となる中、トヨタは当然のように1588億円の黒字を達成。 しかも、2021…

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