兄とその家族が「多額の援助」を受けていたことが発覚
Q.父が亡くなりました。相続人は私(弟)と兄の二人ですが、現在父の遺産分割で兄と揉めています。
父は生前に兄の家族と同居して生活していました。そのためか、父は、兄に対して、生活費の援助などで多額の金銭を贈与していましたが、兄だけではなく、兄の妻や子供に対しても、生前に多額の金銭を贈与していたようです。
兄の生活費の援助としてされた生前贈与は、「特別受益」になると主張していますが、兄の妻や子どもに対する贈与も、実質的には兄が利益を得ていたのと同じではないかと思いますので、これも「特別受益」にはならないのでしょうか。
A.原則として、相続人以外の者に対する生前贈与は「特別受益」とはなりませんが、実質的には被相続人から相続人に直接贈与されたのと異ならないと認められるときは「特別受益」と評価されます。
多額の援助を受けていた場合、特別受益にあたるのか?
相続人のうちの誰か一人だけが親から生活費や学費として多額の援助を受けていた場合、他の相続人からすれば、それは「不公平だから相続の時に考慮すべきだ」と考えるのではないでしょうか。
このような場合、この生前贈与が「特別受益」にあたるかどうか、ということが問題となります。
特別受益に該当すれば、相続分の算定の際に生前贈与の額を考慮して各人の相続分を決めることとなりますので、特別受益と評価されるかどうかは遺産分割においては重要な争点です。
特別受益について問題となる争点は多いですが、本件では「相続人以外の者に対してなされた生前贈与も特別受益となるか」という点が問題となっています。
なぜ、この点が問題になるかというと、特別受益とは、あくまでも「相続人」に対してなされた生前贈与を対象とするのが法律の建前だからです。
しかし、このように形式的に解してしまうと、例えば、相続人の妻に対して生活費の援助として金銭の贈与がなされた場合など、実質的には相続人が利益を得たといえるような場合までもが、特別受益とはならないこととなってしまい、相続人間の公平に反することとなってしまいます。
そこで、この問題については、実質的には被相続人から相続人に直接贈与されたのと異ならないと認められるときは「特別受益」と評価すべきというのが、調停実務での考え方となっています。
となると、本件でも、相続人の妻や子どもへの生前贈与が
「実質的には被相続人から相続人に直接贈与されたのと異ならないと認められる」
ためには、どのような事情や要件が必要なのか、ということが問題となります。