「相続人以外への生前贈与も特別受益に該当する」理由
この問題について、調停・審判において根拠として使われる裁判例が福島地裁白河支部昭和55年5月24日審判です。相続人以外の者になされた生前贈与が特別受益に該当する場合について、以下のように述べています。
まず、
「通常配偶者の一方に贈与がなされれば、他の配偶者もこれにより多かれ少なかれ利益を受けるのであり、場合によつては、直接の贈与を受けたのと異ならないこともありうる。」
「遺産分割にあたつては、当事者の実質的な公平を図ることが重要であることは言うまでもないところ右のような場合、形式的に贈与の当事者でないという理由で、相続人のうちある者が受けている利益を無視して遺産の分割を行うことは、相続人間の実質的な公平を害することになる」
「贈与の経緯、贈与された物の価値、性質これにより相続人の受けている利益などを考慮し、実質的には相続人に直接贈与されたのと異ならないと認められる場合には、たとえ相続人の配偶者に対してなされた贈与であつてもこれを相続人の特別受益とみて、遺産の分割をすべきである。」
上記のように、相続人以外に対する贈与が特別受益に該当する可能性があることを認めました。
裁判所は、この事案については、以下のように述べて相続人以外に対する生前贈与も特別受益に該当すると判断しています(以下の審判文の中で、邦子が相続人で、被相続人から贈与を受けた洋一郎は邦子の夫)。
「相続人に利益を与えることに主眼があったか」が重要
重要なのは、
「被相続人が贈与をした趣旨が、相続人に利益を与えることに主眼があったか」
ということです。
「本件贈与は邦子夫婦が分家をする際に、その生計の資本として邦子の父親である被相続人からなされたものであり、とくに贈与された土地のうち大部分を占める農地についてみると、これを利用するのは農業に従事している邦子であること、
また、右贈与は被相続人の農業を手伝つてくれたことに対する謝礼の趣旨も含まれていると認められるが、農業を手伝つたのは邦子であることなどの事情からすると、被相続人が贈与した趣旨は邦子に利益を与えることに主眼があつたと判断される。登記簿上洋一郎の名義にしたのは、邦子が述ベているように、夫をたてたほうがよいとの配慮からそのようにしたのではないかと推測される。」
「以上のとおり本件贈与は直接邦子になされたのと実質的には異ならないし、また、その評価も、遺産の総額が、二一、四七三、〇〇〇円であるのに対し、贈与財産の額は一三、五五一、四〇〇円であり、両者の総計額の三八パーセントにもなることを考慮すると、右贈与により邦子の受ける利益を無視して遺産分割をすることは、相続人間の公平に反するというべきであり、本件贈与は邦子に対する特別受益にあたると解するのが相当である。」
※本記事は、北村亮典氏監修のHP「相続・離婚法律相談」掲載の記事・コラムを転載し、再作成したものです。
北村 亮典
こすぎ法律事務所弁護士
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