この事案で裁判所は、
・保険金額が遺産総額に匹敵する巨額の利益(約1億円)であること
・受取人である兄が、父と同居をしておらず、父が兄に対して扶養・介護を託する明確な意図を認めることも困難な事情であること
といった事情を重視して、1億円の保険金全額を兄が受け取っていることは著しく不公平である、と判断しました。
その結果、保険金1億円については「特別受益」として、遺産分割のなかで考慮されることになりました。
「1億円の保険金」を全額受け取るだけの理由が必要
この判例から読み取れることは、遺産の額と比較して保険金の額が同等かそれに匹敵する場合には、保険金の受取人が、多額の保険金を受け取れるだけの理由(親との同居や介護の約束があったか等)がないと、相続人間の公平を図るために保険金も遺産分割の際に考慮すべきであると判断されることとなる、ということになろうかと思います。
なお、東京家庭裁判所では、生命保険の受取金が遺産総額の6割以上の場合は、特別受益として取り扱う運用のようです。
昨今、相続対策として生命保険の利用が推奨されていますが、遺産の額と比べて保険金額が大きい場合には、この保険金を巡って死後に思わぬ紛争を引き起こしてしまう可能性がある、という点に留意しておく必要があります。
※本記事は、北村亮典氏監修のHP「相続・離婚法律相談」掲載の記事・コラムを転載し、再作成したものです。
北村 亮典
こすぎ法律事務所弁護士
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