「家に帰ったとき」あることに気づいた。50年ぶりにともに暮らすことになった母親が、どうも妖怪じみて見える。92歳にしては元気すぎるのだ。日本の高齢化は進み、高齢者と後期高齢者という家族構成が珍しくなくなってきた。老いと死、そして生きることを考えていきます。本連載は松原惇子著は『母の老い方観察記録』(海竜社)を抜粋し、再編集したものです。

母の台所からは、毎朝いい匂いがする

妖怪の一日はこうして始まる。6時にセットした目覚ましで起床

 

だいたい6時半には起きて着替えている。パジャマ姿でいることはほとんどなく、起きた時間から、誰が来ても困らない服を着ている。また、長年の習慣のようで、7時まで寝ていることは、これまたほとんどない。わたしの観察では、朝、めまいがすると訴えたのは年3回ほど。しかも、1時間後にはベッドから出てきて「もう治った」と言うではないか。ちなみに同じ状況の場合、わたしは一日中寝ている。

 

母親とずっと暮らしていた友人によると、「90歳を過ぎてからの母は、ほとんど寝ていたわよ」と話す。あまり静かなときは、死んだのかと思い、母親の口に手を当てて息を確かめたと笑う。

 

とはいえ、妖怪も人間なので、朝方、咳をしていることもある。お勤めがあるわけではないので、ゆっくり寝ていればいいのに、7時には起きているのだから恐れ入る。

 

90代母親の朝食はとにかく、すごい品数にすごい食欲だという。(※写真はイメージです/PIXTA)
90代母親の朝食はとにかく、すごい品数にすごい食欲だという。(※写真はイメージです/PIXTA)

 

一方、2階の気ままな娘は、7時過ぎまで寝ている。妖怪はきっと、「いつまで寝てる気?」と心の中では思っているに違いない。だが、お互いに暗黙の了解で口にはしない。言いあいになるのが分かっているからだ。それだけは避けたい。

 

7時 立派な朝食

 

妖怪の朝食は、パン食だが、なにやらいろいろテーブルの上にお皿が並ぶ。ちなみに娘のわたしの朝食は、コーヒー、ヨーグルト、パン一切れに卵と納豆が定番。まだ働いているので、妖怪のように、ゆっくり朝食を味わっている時間はない。

 

母の台所からは、毎朝いい匂いがする。

 

パン─
自宅の一角をお店にしている人が作っている、自然派のパンをいつも買っている。

牛乳─
雪印乳業販売店が配達する瓶入りの牛乳だ。50年近く配達してもらっているようだ。父が生きているときは毎日配達してもらっていたが、さすがに今は週2回に減らしたという。妖怪の体が強いのは、飲み続けている牛乳のせいか。

卵─
近所の友人に、ご実家から定期的においしい卵が届く人がいる。その卵が半端ではない。黄身がオレンジ色で、白身はプリンプリンの極上の卵。しかも大量に届くらしく、1回で数パック下さる。私もおすそ分けにあずかっている。それをゆで卵にしたり、目玉焼きにして妖怪は食べる。

野菜・肉─
肉好きなので、ソーセージやハムは欠かさない。野菜と一緒に炒めて食べている。ちなみに、観察した日は、もやしとピーマンとハムの野菜炒めだった。

 

その他、ヨーグルトと納豆は欠かさない。その日により、冷蔵庫から常備菜のらっきょうや、小魚が食卓に出ている。パンがないときはバナナ。とにかく、すごい品数にすごい食欲だ。スツールに座り、低いテーブルに腰をかがめて食べている光景には、身体とスツールがくっついているのかと見間違うほどだ。

 

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母の老い方観察記録

母の老い方観察記録

松原 惇子

海竜社

『女が家を買うとき』(文藝春秋)で世に出た著者が、「家に帰ったとき」あることに気づいた。50年ぶりにともに暮らすことになった母が、どうも妖怪じみて見える。92歳にしては元気すぎるのだ。 おしゃれ大好き、お出かけ大好…

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