「家に帰ったとき」あることに気づいた。50年ぶりにともに暮らすことになった母親が、どうも妖怪じみて見える。92歳にしては元気すぎるのだ。日本の高齢化は進み、高齢者と後期高齢者という家族構成が珍しくなくなってきた。老いと死、そして生きることを考えていきます。本連載は松原惇子著は『母の老い方観察記録』(海竜社)を抜粋し、再編集したものです。

90代母が運動をしている姿を見たことがない

普通の生活が筋トレだ

 

健康で長生きするために、わたしたちは日々努力をする。テレビで健康番組が多いのは、中高年の関心がそこにあるからだろう。ゴールデンタイムが健康番組のオンパレードという国も珍しいのではないかと思う。

 

チャンネルを替えると、バラエティ番組で芸能人がスクワットをやらされている姿が目に入る。テレビに感化されたくないと普段から批判的なくせに、スクワットの仕方をメモしている自分がいるので、情けない。

 

90代母は年相応に膝が悪いが、おしゃれをして、杖がわりのガラガラをひきながら、何食わぬ顔をして外出するという。(※写真はイメージです/PIXTA)
90代母は年相応に膝が悪いが、おしゃれをして、杖がわりのガラガラをひきながら、何食わぬ顔をして外出するという。(※写真はイメージです/PIXTA)

 

妖怪を見ていると、どこに筋肉がそんなについているのか、不思議な生物を見ている気になる。小さな体でひざまずき、床下収納の取ってに指をかけ、重いふたを引き上げ、5キロの米袋を持ち上げようとする妖怪。わたしが近くにいても絶対に頼まない。

 

なんと勝気な妖怪だろうか。年寄りはもう少し弱々しいはずだが、まるでぜんまい仕掛けのからくり人形のようだ。わたしは、珍しいオモチャを見るようにドアのすき間から覗く。

 

妖怪は運動をしない

 

妖怪の強さはどこからくるのか。正直、一緒に暮らしてから、一度たりとも彼女が運動をしている姿を見たことがない。もしかして、夜中にこっそり? わあ、それでは本物の妖怪ではないか。

 

父は毎朝、自分流のラジオ体操をしていた。しかし、妖怪は整体には通っているが、自宅でストレッチひとつやっていない。父はよく土手を散歩していたが、妖怪の散歩している姿を見たことがない。

 

住宅地を見てみると、ひとり暮らしの高齢者の家は多いが、妖怪のように、出たり入ったりしている姿をほとんど目にしたことがないのは、みなさん、静かに暮らしていているからだろう。外で姿を見ることはまれだ。この年になると、足が悪くて外に出ない人も多いのかもしれない。

 

妖怪も年齢には敵わず、年相応に膝が悪いが、おしゃれをして、杖がわりのガラガラをひきながら、何食わぬ顔をして外出するところが、すごい。やはり妖怪だからだろう。

 

一緒に暮らし始めて、その理由がわかった。これは、妖怪と暮らして得た最大の発見だ。もし、マンション漏水問題で、母と暮らすことがなかったら、気づくことはなかったにちがいない。

 

妖怪の生活にはリズムがある。毎日、同じルーティーンで生活しているのだ。仏教では、正しい生活をすることが心を整えると言われているが、妖怪の生活も驚くほど、きちんとしている。

 

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