「家に帰ったとき」あることに気づいた。50年ぶりにともに暮らすことになった母親が、どうも妖怪じみて見える。92歳にしては元気すぎるのだ。日本の高齢化は進み、高齢者と後期高齢者という家族構成が珍しくなくなってきた。老いと死、そして生きることを考えていきます。本連載は松原惇子著は『母の老い方観察記録』(海竜社)を抜粋し、再編集したものです。

汚く散らかっているのが嫌だから掃除する

A型の妖怪は、食べ終わったあとは、スツールからすくっと立ちキッチンへ。すぐに洗う習慣が身についているらしく、わたしのように、シンクに食器が重なっていることはない。

 

「お母さんっていつも、ちゃんとしてるのね」と褒めると、「だって、主婦だもの」という言葉が返ってくる。主婦でも料理も作らなければ、掃除もしない人もいるというのに、スーパー主婦、それが妖怪か。自分のためだけに家事をするのは、もったいない気がするので、パートに行っておこづかいでも稼いできたら?といやみを言うと、「お金をもらうことはしたくない!」ときっぱり拒否した。

 

それが妖怪の美学のようだ。とにかく妖怪とわたしは、あまりにも生き方が違いすぎるので、接点がほとんどない。

 

かたや主婦、かたやシングルワーキングウーマン。かたや家族あり、かたや何もなし。かたや食べものの話が好き、かたや政治の話が好き。

 

8時 磨く、磨く、どこまでも磨く

 

朝食のあとは必ず緑茶とお菓子で、朝のテレビ小説を見ている。これが妖怪の朝の至福の時間だ。そのあとがすごい。先ほども触れたが、わたしならソファに深々と座っているが、妖怪は、手にモップを持って、床を磨きはじめる。キュキュキュー、カタンカタンカタン。モップの先が、廊下の角にあたる音が聞こえる。妖怪ハウスは、妖怪が動き回っているので本当にうるさい。

 

ダスキンと50年前から契約していて、定期的にモップと雑巾が届くので、それで磨くのだ。しかも妖怪は、どこにもほこりが見当たらなくても、毎日磨いているので、室内はいつもピカピカだ。同居しはじめたときは、朝のそうじの音に、1階に住みこみのお手伝いさんがいるのかと思ったほどだ。

 

掃除機はさすがに重いようで、掃除機をかけるときはパートの人に頼んでいる。娘に「掃除機、かけてくれる?」と頼まないところがえらいのか、勝気なのか。この妖怪は男性には甘えるが、娘には甘えない。

 

一方、気ままな娘は、1週間に一度ほどクイックルで掃除はしているが、ダスキンモップはほとんど使ったことがないので、同じ床材でありながら、一階と二階ではその光沢に明らかなちがいが出ている。

 

妖怪によると、汚く散らかっているのが嫌だから掃除しているだけで、別にきれい好きじゃないとのたまう。

 

仕事で他人のうちにあがることが多い電気屋さんによると、「こんなにきれいな家はみたことがない」そうだ。妖怪は「これが普通よ」というが、電気屋さんは「いやいや、外観が立派な家でも、家の中は、ひどいもんですよ」と笑う。

 

掃除がこれほど行き届いている家は、日本ではまれのようだが、欧米では当たり前だ。でも、きれいな家は風水的にもよさそうだが、妖怪の娘も息子もひとり身なのはなぜかしら。

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