「家に帰ったとき」あることに気づいた。50年ぶりにともに暮らすことになった母親が、どうも妖怪じみて見える。92歳にしては元気すぎるのだ。日本の高齢化は進み、高齢者と後期高齢者という家族構成が珍しくなくなってきた。老いと死、そして生きることを考えていきます。本連載は松原惇子著は『母の老い方観察記録』(海竜社)を抜粋し、再編集したものです。

「ステーキ食べたい」と90代の母が言った

我が家は、現代日本家族を象徴する老老家族だ。父が生きているときは、それでも普通の家族の形態を保っていたが、まさか、母が妖怪になり、娘のわたしが猫と一緒にもどってくるとは、晴天の霹靂だろう。

 

更にうちは、弟までが未婚のひとり暮らしだ。あの自民党女性議員に言われるまでもなく、国に何も貢献していない生産性のない家族だ。

 

その生産性のない家族3人が全員集合するのは、お墓参りとお正月のときだけだ。妖怪にとり大事なのは仏様。毎朝、お経をあげている。せっかちなので、お経を読むスピードが速い。あれでは父の耳に入らないだろう。お経は耳で覚えたそうだ。ちなみに、わたしは長年、仏教講座の生徒だったにもかかわらず、般若心経をまだ暗記できていない。

 

90代母はエプロンつけて、うれしそうに200グラムのステーキを食べていたという。(※写真はイメージです/PIXTA)
90代母はエプロンつけて、うれしそうに200グラムのステーキを食べていたという。(※写真はイメージです/PIXTA)

 

お墓参りに行くとき妖怪は、前日からいそいそと水を張ったお風呂に花を浸す。当日の朝になると、お墓参りに行く準備がすっかりと整い、玄関に持参するものが並んでいる。お花、数珠、お線香はもちろん、車内で食べるみかんに飴に水など周到な準備に、この人は絶対にボケないと確信する。

 

赤い色は元気をくれる

 

車の運転はわたしだ。弟はわたしと違い慎重な性格なのか、車の運転を60歳でやめた。一方、年甲斐もなく仕事で忙しいわたしは、65 歳の誕生日に真っ赤な軽自動車を買った。これから年をとるのに赤は派手かなと躊躇したが、今では赤にしてよかったと心から思っている。なぜなら色の力はすごいからだ。ガレージに赤色が見えるだけで、テンションがあがる。

 

妖怪とその息子は、71歳のわたしの運転でお墓まで行き、お参りを済ませると、帰り道にある、隠れた名店でうなぎを食べるのがいつものパターンだ。仕事の都合でわたしが行けなかったある日、妖怪と弟の二人で電車で行ってもらうことにした。

 

大好きな息子と二人のほうが、妖怪もうれしいにちがいない。二人とも「今日は、車ないの」と不平を言わないことからわかる。

 

そうよね。わたしがいると、わたしと弟が政治批判の話ばかりするので、母は外野になってしまう。父が自民党だったので、母も自民党に投票しているらしいので、安倍批判も気を使う。

 

弟に「今日は、どこでランチしたの?」と聞くと、「お母さんがステーキ食べたいっていうから、いきなりステーキに行った」と言うではないか。

 

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