必要とあらばゴミすらあさる執念
映画『マルサの女』(伊丹十三監督・1987年)で、調査官が焼却場のゴミをかき分けて資料を探す印象的なシーンがありましたが、あれは誇張ではなく事実です。マルサは必要とあらばゴミまであさり、脱税の根拠となる資料を見つけ出していくのです。
物的証拠だけではありません。査察官は何げない会話から経営者や従業員の心の動揺を見抜き、脱税につながる情報を聞き出してしまいます。
マルサに踏み込まれると絶対に逃れられない――そう考えたほうが賢明でしょう。
先ほど紹介した後藤さんの場合、マルサに睨まれたきっかけは内部告発でした。「社長が利益を抜いている」と匿名で国税局に投書が寄せられたのです。脱税が発覚するきっかけは、このように内情を知る人物が情報提供することが少なくありません。
後藤さんは父親が創業した会社を50代で引き継ぎ、製造拠点をアジアに移転するなど、精力的に経営改革を行ってきました。ところが「魔がさす」とはこのことを言うのでしょう。アジア進出の際に、あるコーディネーターから現地の投資の儲け話を持ちかけられ、彼はまんまと乗ってしまったのです。
後藤さんはいわゆる「架空外注費」を計上して会社の利益を持ち出し、そのコーディネーターを介して投資の契約を結んでいました。”存在しない外注費”を支払うと見せかけて、実際には親族の銀行口座に資金を振り込んでいたのです。
そうしたやり口をマルサが見抜けないわけがありません。除外した利益の受け皿となっていた親族の銀行口座を内偵の段階で突き止めて、資金の動きを把握し、冒頭の強制捜査に踏み切ったのです。
後藤さんが架空外注費として捻出した金額は3億円に上りました。その目的は海外での投資により会社の将来を安定させることです。しかし、3億円の脱税容疑で刑事告発され、執行猶予付きの有罪判決が言い渡されることとなったのです。
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