大学受験の記事は、その発信者の多くが都市部在住だからであろう、とかく「都会目線」で語られることが多い。そこで語られる内容は事実ではあるのだが、地方在住者にとっては現実から乖離していることも珍しくない。地方在住者と都会在住者とでは、受験事情が大きく異なる。ここでは四国の元高校教員で、現在は私塾を経営する傍ら地元大学の学校教育学部で教鞭を執る筆者が、地方在住者のリアルな医学部受験を語る。

「たった1つの弱点が命取り」地方国公立の選抜事情

筆者は、徳島県で25年以上も高校生を指導し続けて今に至る。経営している塾は高校国語の専門塾なのだが、毎年約半数の生徒が医学部を受験する。なぜ、国語塾に医学部志望者が集まるのか。その秘密は、地方国公立大学医学部受験にある。

 

東京大学をはじめとするトップ大は、二次試験のウェイトも高く、いわゆる記述式の難関大学受験対策が必要となってくる。だが、地方国公立大学の場合、東大等に比べると相対的に共通テストの得点割合が高くなる。

 

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医学部を受験する場合は、最低でも全体で8割5分、できれば9割の得点率が必要となる。共通テスト国語の読解問題には、1問あたり8点の配点があるので、数問の間違いで医学部は遠く離れた存在となってしまう。

 

医学部志望の生徒は、さすがに理系科目は強いので、「唯一の弱点」である国語を強化しようと、筆者の塾に医学部志望者が集まるのである。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

加えて、地方国公立大学医学部には、推薦入試制度がある(推薦入試制度の中には、「地方枠」と言って、卒後数年間の地元病院勤務を約束させる場合があり賛否両論だが、この制度の是非についてはここでは論じない)。

 

国公立大学の推薦入試には、その入試形態で大きく分けて「共通テストを課す形」と「共通テストを課さない形」があるが、医学部の場合は、「共通テストを課す形」が圧倒的多数である。ここでは、二次試験の挽回がきかず、学科試験は共通テストのみとなるので、まさに「1教科たりとも落とせない」熾烈な争いとなるのである。

 

トップ大の医学部の場合、東京大学、京都大学、名古屋大学以外は国語を課されないので、少々国語が苦手であっても、共通テストの国語の失点分くらいは、二次の数英理で取り返せることもあるが、地方国公立大の医学部受験においては、苦手科目が命取りとなるということだ。よって、地方国公立大の医学部を狙うには、共通テストで苦手科目を作らないことが、その第一歩となる。

地方推薦入試で「お眼鏡にかなう受験生」の条件

地方国公立大医学部を目指す生徒の多くは、推薦入試から受験する。卒業後の就職も考えると、在住県か近隣県の医学部を受験することが多い。

 

地方国公立大推薦入試では、高校教員が記載する「推薦書」というものがある。大学ごとに決まった書式があり、「当該生徒を推薦する理由」「学業面」「特別活動面」「卒業後の進路」など、指定された項目ごとに担任が文章で記載していく。けっこうな分量を書かなくてはならず、「書くことがない」という生徒の推薦書には、教員達が頭を悩ませることになる。

 

推薦書の記載事項からもわかるとおり、地方国公立大推薦入試で求められるのは、いわゆる「3年間ひたすら勉強をがんばりました」というガリ勉タイプではなく、「部活動にも勉強にも全力で取り組みました」「学校の文化祭でリーダーをしました」という文武両道型で、人間力のある生徒なのである。

 

地方大の医学部が学力のみならず人間力の高い生徒を求めていることは、その入試形態からも窺い知ることができる。個人面接に集団面接を併用している大学がある。AO入試型では、受験生にグループワークをさせてその様子を観察したり、プレゼンをさせたりする大学もある。どちらも協調性やリーダーシップ、コミュニケーション能力を測っているのである。そうした力は、高校生活においては部活動や特別活動で養われるものであるため、推薦書にも「特別活動の所見」に大きくスペースが割かれているのだろう。

 

実際に、地方大の医学部に合格していく生徒は、勉強だけではなく、課外活動にも積極的に取り組んでいる子が多い。そこには、タスク管理の巧さも勝因としてあげることができるだろう。課外活動に積極的に参加すると、どうしても学習時間は削られる。それでも高い学力を維持するためには効率的に学習せざるを得ない。

 

充実した高校生活を送っている生徒の毎日は忙しい。16時半に学校が終わり、部活動に出て、塾に行き、帰宅して勉強する。時間をやり繰りして努力を重ねるうちに、高校3年間でマルチタスクを効率的にこなしていくスキルが自然と身についていくのである。いや、身につけた生徒だけが、医学部にたどり着くのである。

 

もちろん、生徒の中には、部活動もせず、ひたすら勉強に励んだ3年間を送って医学部に入学する生徒も少数ながら存在する。しかし、そうした生徒は、入学後に医学部のタスク量について行けず、留年してしまうこともある。人間力の高い生徒は、入学後も仲間と助け合って各種試験をクリアしていく。大学がどちらの生徒を求めているかは明白である。

 

医師には複数のタスクを同時にこなす力が求められ、現代医療は、チームワークだからである。

合格困難でも地方国公立を「選ばざるを得ない」事情

地方の医学部受験者には、私立大学を受験できる生徒とできない生徒がいる。「できない」とはどういうことか。金銭的な問題である。私立大学の医学部は、6年間で数千万円の授業料が必要となる。普通のサラリーマン家庭で出せる金額ではない(都心部であれば、「普通のサラリーマン」にもこの金額を捻出できる家庭もあるのかもしれない)。

 

よって、医学部に行きたいと生徒が申し出てきたときに、我々指導者は「私大は受験できるのか否か」を確認する。私大は無理だと言われれば、国公立医学部に入学する以外に医師免許を手にする方法がなくなるからだ。私大受験が可能であれば、国公立と併願していくことになる。

 

残念なことだが、生徒が「医師になる」ための手数は、富裕層のほうが多いと言わざるを得ないのが現状である。

 

一口に医学部受験と言っても、住んでいる地域によって、親の経済状態によって、その戦い方は大きく異なる。医学部は西日本に偏在しているので、東日本と西日本ではまた違うであろう。医学部のみならず、21世紀の受験に必要な力として、最後に情報収集力をあげておく。志望大学のアドミッションズポリシーを熟読するのは、いろはの「い」。教育内容や他大学医学部との差異まで見ておくべきである。

 

医学部には面接がある。とくに自分の居住地以外の医学部を受験する場合、「なぜ居住地の医学部ではなく本学だったのか」と問われることが多い。それに、何と答えられるのか。「XX町に住んでみたかった」ではなく、医学教育という観点でその理由を答えられるようにしたい。

 

これを読んでくださった方にとって、少しでも参考になれば幸いである。

 

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黒田 麻衣子

Office MAIKO 高校国語専門塾

兵庫教育大学大学院連合学校教育学研究科博士課程在籍

鳴門教育大学大学院嘱託講師

 

 

 

 

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