娘を「改心させるため」留学に出したら…両親の誤算
小学生の頃から今ひとつ成績が振るわなかった。中学受験直前の社会の模擬試験では、ランダムに記入した答案のほうが、考えて回答したものより点数が良かった。
2021年2月現在、私はスロバキアという聞き慣れない国にある、コメニウス大学の医学部6年生だ。海外医学部留学というと聞こえがいいかもしれないが、率直に言うと、日本の医学部に入学する学力がなく、家に小金があったから在学できている身だ。英国や米国、ドイツではない、流れ流れて東欧の医学部である。
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学業成績が振るわなかった私は中学受験も芳しくなく、結果、世界の田舎ニュージーランドの奥地、メスベンという人口2000人ほどの村へ日本から放り出される形で留学した。
両親は、3ヵ月もすればホームシックになり改心し、日本で勉強に打ち込むと泣きつくと思ったそうだ。しかし実際には、ニュージーランドの同級生は掛け算もままならない生徒ばかりであったため、九九ができるだけで神童として崇められ、大変気分良く学校生活を謳歌した。
そのまま中高をニュージーランドで卒業し、英国バーミンガム大学国際関係学部へ進学したが、これは迂闊であった。成績優秀な先輩が就職できずにタクシードライバーになるのを見て焦り、ニュージーランドでの再度の大学進学も考えたが、たまたま入力した「海外医学部 英語」で、東欧の医学部留学を斡旋する留学会社を見つけた。
英語コースなのに「英語力がなくても解ける」入試問題
コメニウス大学医学部英語コースの受験は、事前に配布されている回答付きの800問の問題集から、100問が出題される。1問につき、4つの選択肢があり、True/False式という全部の回答が正解な場合もあれば、全部間違っている場合もあるというものだ。
選択肢1つにつき得点は1点で、400点満点の試験となる。合格ラインは、正答率70%以上。日本のセンター試験が多肢択一式であることと比較すると如何に容易いかがわかるであろう。ちなみに近隣国のドイツでは、この形式の試験は認められていない。
なお問題は一言一句違わず例題通りに出るため、英語がわからなくても百人一首の「むすめふさほせ」の要領で問題文を覚えておけば即座に回答できる。
受験当日は、1時間前に会場入りをすることになっていた。名前順に会場にぎゅうぎゅう詰めに座っていった。
受験生が順番に着席していくなか、5分に一度のペースで教員が「正しい選択肢にバツ印を記入し、間違っている選択肢は空白のままにしてください。くれぐれも問題用紙を塗りつぶさないように」とディズニーアトラクションのように繰り返し唱えていた。
気が狂うほど同じ説明を受けたあと、ようやく試験が始まった。試験時間は3時間だ。一人一人、ランダムに問題が割り振られた異なる問題用紙を配られているため、カンニングできる者はいない。周りをキョロキョロしても、特に何も言われない。2時間半以上、暇つぶしに前の学生たちを眺めていた。2人とも解答用紙を塗りつぶしていた。
合格発表は、入試から2日〜3日後にオンラインで発表される。入学定員は250-300人だ。合格発表後、約120万円の学費1年分をスロバキアの口座に支払うと、その後始業直前まで連絡なく、ひっそり9月中旬に授業が始まる。
一応「合格ライン」なるものは設けられているものの、実際には得点上位者から順に定員数までが合格となる。私の学年の最低点は50%だった。解答選択肢がマルとバツしかなく、各選択肢に点が割り振られている試験でランダムに回答した際の期待値を考えると、入学者の程度がわかるであろう。
卒業までに1学年90人から80人になると人に話すと、「大変ね」と言われるが、周りの学生のレベルを考えると物凄くハードな訳ではないことがおわかりいただけると思う。
日本国家試験の受験資格を得られる、知る人ぞ知る方法
私の日常生活はというと、大して広くないブラチスラバで5回の引っ越しを経て、今では旧市街のファミリータイプのアパートに、ポーランド人の同級生カップルと同居している。そのうちの男性のほう、アダムとは5年の付き合いだ。2年生の時に知り合い、それ以来一緒にルームシェアを続けている。
1年生のときは、光熱費、水道代込み2LDK月700ユーロ(約8万3千円)のアパートに住んでいたが、かなりの予算オーバーであった。これは当初スロバキアでのアパート探しの方法がわからず留学会社に物件探しを任せてしまったことが原因だ。
その後、紆余曲折を経て4年生のときから、アダムが付き合い始めたガールフレンドのマグダが、アダムと同棲する形で3人目の住人となり、カップル+私という形のルームシェアが完成した。現在は、旧市街部の光熱費・水道代・インターネット込み3LDK月1040ユーロ(約12万4千円)の家賃を3人で割り勘している。
マグダは、私とアダムの食事を3食作ってくれている。アダムいわく、私は「同棲したカップルが飼い始める猫のような存在」だそうだ。なので、食事の時間には、催促の代わりに「にゃー」と言うことにしている。
こんな猫並みの生活をしていても、コメニウス大学を卒業できれば、EU共通の医師免許を取得することができる。そして東欧医学部を卒業した日本人の多くは、EUの医師免許を取得後に、帰国し日本の医師資格取得を目指す。
スロバキアの医師は、専門医でも月給が14万円程度と低く、ほぼ週2で夜勤だという。スロバキア語の試験を受けてまで、残る理由が見つからない。卒業後は、私も例に倣い日本の医師免許を取得したい。厚生労働省の裁量による部分はあるが、東欧の医学部を卒業しても日本の医師国家試験を受けることができる。こんな裏道があるのだ。
ちなみにコメニウス大学医学部英語コースの1年間の学費は、9,500ユーロ(日本円で1ユーロ=119円、よって約113万円)だ。国立のT京大学医学部の倍だが、私立のT京大学医学部と比べるとなかなか低価格だ。生活費もスロバキアは、学生にとって過ごしやすい。私の食費は外食を週に1-2回と、ご主人であるアダムとマグダに贈るビール数本くらいだ。一人暮らしをしていた時も、月2万5千円以内に収まっていた。
ブラチスラバっ子の自慢はウィーンに近いことだ(公共交通機関で1時間程度)。もしお子さんがプラプラしているならば、とりあえずブラチスラバに留学させて、訪問ついでにウィーン観光をされてみてはいかがだろうか?
妹尾 優希
スロバキア・コメニウス大学医学部6年
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