独身だった叔母が亡くなり、残された資産は不動産と預貯金の合計8000万円。亡くなった叔母の妹にあたる2人の叔母たちは「商売を継ぐから」と、代襲相続人の3人の姪っ子に相続放棄を迫ります。2人は放棄に応じたものの、残りの1人は、放棄したくてもできない「個人的な事情」がありました。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに解説します。

「相続放棄できないのは、自分の将来のため…」

「妹たちはあっさりと相続放棄しましたが、私は放棄したくないんです。でも、叔母たちの心は決まっているようで…。いくら私が主張しても、おそらく押し問答にしかならないでしょう。このような状況で、遺産を受け取ることはむずかしいでしょうか?」

 

筆者のもとに相談に来た山本さんは、ひどく思いつめた様子に見えました。

 

 

「山本さんはれっきとした相続人ですから、相続できないなんてことはありませんよ」

 

筆者がそのように伝えると、一瞬ほっとした様子を見せた山本さんですが、表情は固いままです。

 

「もし差し支えなければ、ご事情をお聞かせくださいますか?」

 

筆者の問いかけを皮切りに、山本さんは少しずつ自分の状況を話してくれました。

 

「私が相続放棄しないというか、できないのは、自分の将来のためなんです。私は30代半ばで離婚しました。資産家のひとりっ子だった主人との間に子どもができず、義理の両親につらく当たられたからです」

 

「私は両親の介護で仕事が続けられず、新卒から務めていた会社を辞めました。その後は派遣社員になり、いまはアルバイトです。数年前から同居しているパートナーがいますが、事情があって入籍していません。彼は自営業で、前の奥さんとの間には未成年のお子さんが3人います。そんな状況ですから、どうしても将来が不安なんです。もらえるお金はもらいたい…」

相続放棄は必要なし…ただし、話し合いには注意が必要

筆者は山本さんの話を黙って聞いていました。そのうえで、自分の権利分は相続できるということを改めて伝えるとともに、叔母たちともう1度話し合いをしてみるよう提案しました。今回の場合は、直接叔母たちから連絡が来ているので、とくに専門家に依頼する必要もなく、叔母たちと話し合って希望を伝え、合意できればいいことになります。

 

筆者に胸の内を吐き出して気持ちが楽になったのか、山本さんは少し和らいだ面持ちで「もう一度連絡を取ってみます」といって事務所をあとにしました。


山本さんはれっきとした相続人ですから、権利を主張することに何も問題はありません。法定割合である1/9を目安に、相続したいと希望を出すべきでしょう。

 

ただ、不動産に関しては注意も必要です。時価評価をすれば不動産価格は高くなりますが、それが理由となって叔母たちとの合意が得られない可能性もあるからです。感情的な衝突が起こらないよう、話し合いはマイルドにすることをお勧めしました。

 

今回の相談とは別の話ですが、パートナーの方とも入籍をするか、そうでなければ遺言を残してもらうよう、あわせてアドバイスをしました。現在は自営業のパートナーに生活を頼っていますが、もしお相手に万一の事態があったとき、同居人の立場では相続権がありません。お相手にはお子さんがいるとのことですから、資産はすべてお子さんが相続することになってしまいます。

 

自分の生活を守るのであれば、取れる対策を抜かりなく取っておくことが大切だといえるでしょう。

 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

曽根 惠子

株式会社夢相続代表取締役

公認不動産コンサルティングマスター

相続対策専門士

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

 

 

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    本記事は、株式会社夢相続が運営するサイトに掲載された相談事例を転載・再編集したものです。

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