独身だった叔母が亡くなり、残された資産は不動産と預貯金の合計8000万円。亡くなった叔母の妹にあたる2人の叔母たちは「商売を継ぐから」と、代襲相続人の3人の姪っ子に相続放棄を迫ります。2人は放棄に応じたものの、残りの1人は、放棄したくてもできない「個人的な事情」がありました。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに解説します。

亡き父の妹が、約8000万円の資産を残して死去

今回の相談者は、50代の女性の山本さんです。独身で子どものない父方の叔母が亡くなり、その叔母の相続の件で相談したいということでした。

 

被相続人となる山本さんの叔母は、山本さんの亡父の妹です。また、亡くなった叔母の下には2人の妹がいます。山本さんは3人姉妹であるため、相続人は、山本さん姉妹3人と、叔母2人の合計5人です。叔母たちと山本さん姉妹は、ほとんど交流がありません。

 

 

独身を通した叔母は、祖父母から継いだ店を経営しており、それなりの収益を上げていました。しかし、亡くなる2年ほど前から認知症を発症し、商売を中断。後見人として弁護士がついています。遺言書は残しておらず、そのため相続人間での遺産分割協議が必要な状況でした。

 

叔母の葬儀の数日後、山本さん姉妹のもとに、後見人からそれぞれ財産目録が送られてきました。叔母の財産は、東京大田区にある住宅兼店舗が4000万円程度、預金4000万円程度、合計約8000万円です。

 

●相続人関係図

被相続人:70代女性
相続人 :被相続人の亡兄の長女(相談者)・次女・三女…代襲相続人
     被相続人の妹1・妹2(相談者の叔母)
相続財産:自宅兼店舗・約4000万円、預貯金・約4000万円

 

亡くなった叔母が暮らしていた住宅兼店舗は、もともと山本さんの父親の実家でした。長男だった父親は祖父母から家業を継ぐようにいわれていましたが、両親の商売に関心がなく、また、仕事の関係で実家住まいがむずかしかったことから、別の場所に自宅を購入し、そこを生活基盤としていました。

 

父親が商売を継がなかったため、長女で独身の叔母が祖父母と同居しながら家業を切り盛りし、晩年の祖父母の介護も行いました。そういった経緯から、住居兼店舗は亡くなった叔母の名義になっていたのです。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

叔母たちは「商売を継ぐから相続放棄して」と…

財産目録を受け取ってからしばらくして、山本さん姉妹のもとに、叔母たちから「相続人全員で話がしたい」という連絡があり、山本さん姉妹と2人の叔母の5人で話し合いを行いました。

 

話し合いの席では、挨拶も早々に、末っ子にあたる叔母が口火を切りました。

 

「お姉さんと私の2人で、実家の商売を引き継いでいきたいの。だからあなたたちは相続放棄してもらえない?」

 

山本さん姉妹は一瞬顔を見合わせましたが、妹2人はしばらく考え込んだのち、叔母の話に同意しました。

 

「そうねぇ、お爺ちゃんのお店が再開できるなら、そのほうが…」

 

「相続手続きって大変みたいだから、叔母さんたちのいうとおりにしようかな」

 

妹たちは叔母が差し出した菓子折りを受け取り、子どもの送迎や夫の夕食の支度を理由に、あっさり引き上げていきました。

 

しかし、山本さんは妹たちのように納得できませんでした。

 

「少し考えさせてもらえますか?」

 

「…まぁ」

 

「あらいやだ」

 

眉をひそめ、不満を隠さない叔母たちでしたが、山本さんはハンドバッグを手にすると、静かに席を立ちました。

 

次ページ「私が相続放棄できない理由は…」

本記事は、株式会社夢相続が運営するサイトに掲載された相談事例を転載・再編集したものです。

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