多くの医学部教授は一度は学会長への野望を持つ
それでも、東大医学部卒が学会を回す
鳥集 東大医学部から医局に入るというのは、医学界全体から見ても、やはり有利なのでしょうか。
和田 絶対的に有利です。東大の医学部教授というのは各学会の理事長*になれる確率がものすごく高くなります。
医療系の学会は現在、日本医学会に認められているだけでも100以上に分かれています。
そのうち、ほとんどの学会で毎年、学会長*は代わるわけです。学会長になると、その大学のある都市で学会の総会が開かれるので、地元で相当いい顔になれる。理事長ではなくてね。それで、多くの医学部教授というものは、なぜか一生のうちに一度は学会長になりたいと野望を持つらしいです。
なんであんなにシンドい役職をやりたがるのか、私は理解に苦しみますが。そんな時間と労力があったら、映画を1本撮れますからね。まあ、昔ならば、製薬会社から多額な協賛金という名のご祝儀が集まっていたから、学会を開くたびに5000万円くらいは集まると言われていましたが、今はそんなこともないでしょうから、手弁当の人も多いと思います。
理事長
医療系学会の組織は、基本、理事長を最高位として副理事長、常務理事などからなる役員と、評議員、会員、賛助する製薬会社、医療機器メーカーなどと各種委員会からなることが多い。理事長は事実上のトップ。
学会長
医療系学会における学会長は、年1回開催される学会の集会での幹事的な役回り。
鳥集 医学会は年1回、全国各地で学術集会を開きます。その集会の主催者が「学会長」ですね。学会長は大抵、各地の大学の教授が持ち回りで担当します。一方、理事長は、その学会の事実上のトップです。歴史の古い大きな学会ほど、理事長は東大をはじめ旧帝大や有名私大の教授が独占していることが多いです。私のイメージでは、学会長は結婚式の披露宴の幹事みたいなものかと。今年の懇親会では、サプライズでさだまさしを呼んで歌ってもらおうとか、そういうことまで考えないといけないわけですから。
和田 まあ、実質はそんなところでしょう。要は、権威ですよ、権威。医学部教授が学会長になれる確率というのは、医学部が82あるわけですから、自分の任期が10年として、8分の1くらいらしいけどね。しかし東大、名大、阪大、京大、慶応大の教授ならば、一生のうち、必ず一度はなれるはずですよ。
ただ、別の利権が存在するのも確かです。学会によっては学会ボス、すなわち理事長が、大学の医局に治験を分配します。治験が一つ回ってきたら、500万~1000万円くらいはもらえるはずです。
だから、一般の医学部の教授は学会ボスに頭が上がらない。私も東北大学の老年内科の非常勤講師を務めていましたが、『週刊文春』に骨粗鬆症の薬の批判を書いたら、当時の学会ボスから東北大学の教授に電話がかかってきて、それを忖度した東北大の教授から非常勤講師を任期途中でクビになりました。先の、秋下教授がそのボスに忖度して、骨粗鬆症の薬は全部安全だと書かざるを得ない空気になるのも、さもありなん、と思いました。
鳥集 日本医学会のトップは「会長」ですが、ずっと東大医学部OBが務めてきました。それがようやく、2017年6月に初めて東大以外の出身者である門田守人氏(阪大卒)が会長となりました。日本内科学会も日本外科学会も、理事長はずっと東大をはじめ旧帝大の教授たちで回しています。
和田 そうです。だから少なくとも東大医学部の教授になったら自分の所属する学会の理事長なり会長になれる確率はメチャクチャ高いわけです。よその大学は8分の1くらいの確率なのに。
鳥集 たとえば、山形大学とか島根大学など過疎地の大学医学部で、力をつけた教授がいたとしても、そういう人が学会の理事長に抜擢されるということは、ほぼあり得ないのでしょうか。
和田 ほぼあり得ないでしょうね。しかし、多くの精神科医が所属する日本精神神経学会だけは稀にそういうことがあります。だけどそれはそれで、変なのを選んでしまう。通常は評議員を選挙で選び、その評議員のなかから理事を選び、そこから理事長を選ぶという流れです。
鳥集 それは投票ですか。
和田 投票です。私は今、6つの学会に入っていますから、評議員選挙のお願いのメールが頻繁に送られてきます。選挙なので本来はフェアなはずなのですけど、なぜか、理事長はともかく、理事には東大卒が入ってないといけない、「東大卒の医師が理事にいない学会は二流だ」と考える人もいるようです。