入院中に大腿骨を骨折した姑。手術は成功した一方で、介護の負担が減ることはなかった。息子夫婦の協力によってつかの間の休息をとることができたものの、癇に障るお見舞いや姑の理解できない言動に今後への不安が募っていく。 ※幻冬舎ゴールドライフオンラインの人気エッセイ『嫁姑奮戦記』を連載でお届けします。

六月三日、いよいよ姑退院の日である。

六月三日、いよいよ姑退院の日である。四月六日に入院してほぼ二ヶ月、この病院にお世話になった。詰所から目の届く大きな窓のある部屋を長い間占領し続け迷惑もおかけした。

 

この大きな窓から姑はよく詰所を覗いていた。ある時は集会所かと聞き、ある時は近所の出版社の名前を言い、ある時は工場かと聞いた。

 

どうして最後まで詰所かと聞かなかったのかと考えてみた。多分、姑は「詰所」という言葉も、どういう所かも知らなかったので、出て来なかったのだと思う。今まで 一度も詰所に行ったことのない幸せな人だったのだ。

 

娘が最後の夜は付き添ってくれた。やはり食後三時間ほど寝て後は明け方まで妄想でお喋りし、動き回ったそうだ。

 

前日は普通の者でも興奮して眠れないのに、姑が大人しくあろうはずがないとは思っていたが。

 

午前十時退院ということなので早めに行く。

 

朝一番に胃カメラに連れて行ったそうだ。まだ完全には治っていないとのこと。二週間分のお薬をいただく。

 

シャワーを使わせ、さっぱりしたところで身支度させる。

 

支払いを済ませ詰所に挨拶に行く。朝の忙しい時間帯だったので先生も不在、看護婦さんも二、三人だけだった。皆さんにお会いしてお礼が言いたかったのだが。荷物はぼつぼつ自転車で持ち帰っていたので少ないと思ったが、結構ある。

 

看護婦さんが車椅子を押してタクシー乗り場まで見送ってくださる。姑はあたふた する私たちを尻目に静かだった。

 

本記事は幻冬舎ゴールドライフオンライン掲載の『嫁姑奮戦記』を再編集したものです。

 

 

嫁姑奮戦記

嫁姑奮戦記

大野 公子

幻冬舎メディアコンサルティング

入院早々骨折、幻覚幻聴、物忘れ……病院を騒がせる姑と嫁のやり場のない戦い。 介護する側、される側、双方には今日に至るまでの歴史がある。 血縁だけでは語れない愛がそこにはあった。 嫁が綴った過去の日記をもとに、「…

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