要介護5の入居者を集めれば儲かる仕組み
私は、この点に関し最大の問題は、ここの部分の「教育」を事業者にも利用者や入居者に対しても、誰も行ってこなかったことにあると考えています。
2000年以降、介護事業がビジネスとして進化していく中で、多くの介護事業者が多くのコンサルタント企業の手助けを受けて商売として取り組んできました。つまり、利益の追求です。ビジネスである以上、利益の追求は当たり前であり、そこに異論はありません。しかし、現実的に介護現場で起きていることは、いわゆるビジネスの領域とは少し勝手が違います。
老人ホームの収入は、入居者の要介護度に応じて受け取れる報酬金額が違います。要は、比較的元気な「要支援1」に認定されている入居者からは、たいした額の介護報酬を得ることはできず、逆に常時寝たきりの「要介護5」の入居者からはたくさんの介護報酬を得ることができます。つまり理論上は、老人ホームは、利益を重視した場合は要介護5の入居者をたくさん集めれば莫大な収益を得ることができるのです。ただし、現実にはなかなかうまくはいきませんが……。
このルールの中で介護職には悩みがあります。それは、入居者に対し誠心誠意関わっていると、介護度が多少向上する(介護が軽くなる)ということです。たとえば、要介護3の入居者に対し自立支援に真剣に取り組んでいると、定期的に実施される介護認定調査で、要介護3から要介護1に再認定されるということが発生します。
つまり、今まで介護保険報酬として国から35万円貰っていた入居者が今月から15万円に介護保険報酬が減ってしまう、という現象が起きるのです。俗な言い方をすると、真面目に誠意をもって入居者と関わってきたらホームが受け取る収入が減ってしまったという、まさに「泣き面に蜂」の状態です。
もちろん、いくら介護職員が懸命に関わったとしても、多くの入居者の状態が劇的に変わることはありません。しかし、老人ホームの実情の中の一部には、確実にこのようなおかしな現象が起きてしまい、結果、売上が減って困ったというケースが存在します。介護職員の努力が入居者の身体状態の向上と言う形で評価されたが、その結果収入が減ってしまった。これが介護保険事業の実態です。
当然、心ない事業者の中には、早く入居者の介護度を上げて、つまり要介護2の入居者を早く寝たきりの要介護5にして、少しでも高い報酬を獲得しようと考える輩も現実に出現しているのではと思っています。
小嶋 勝利
株式会社ASFON TRUST NETWORK 常務取締役
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