急激な血糖値の上昇「血糖スパイク」に注意!
精製された炭水化物を一度に大量に摂ると、「血糖スパイク」と呼ばれる急激な血糖上昇が起こります(図表2)。
この急激な血糖上昇に伴い、インスリンも過剰に分泌されてしまいますが、すると、今度は、大量のインスリンによって血糖値が急激に下がり、ひどいときは低血糖の状態に陥ります。
低血糖の状態は、身体にとっては生命維持に必要なエネルギーが枯渇している危険な状態であり、身体はその緊急事態に備えようと、交感神経が活発になります。交感神経刺激状態になると、発汗や動悸のような身体症状のほか、疲労感や集中力の低下、眠気、気力の低下などを引き起こすことになります。
このような状態は「隠れ低血糖」と呼ばれ、しばしば日常診療においても見過ごされていることも多く、その症状から、うつ病や自律画像神経失調症などと誤診されてしまい、精神科や心療内科でそのまま治療を開始されてしまうケースもあります。
また、インスリンが大量に分泌されるということは、脂肪を溜めこもうとして太りやすくなるということでもありますが、血糖スパイクが日常的に繰り返され、慢性的にインスリンが過剰な状態が続くと、過剰反応を防ごうと、細胞内のインスリンレセプターは徐々に減少していきます。
そうなってくると、インスリンが分泌されても反応しない、インスリン抵抗性という状態になってしまいます。インスリン抵抗性によって、ますますインスリン分泌が促進される悪循環が長期に続くと、結果的にインスリンを分泌する膵臓のβ細胞が疲弊し、インスリン分泌ができなくなり、糖尿病になります。
ですから、肥満も糖尿病の予防も、まずは食後血糖をチェックすることがとても大切です。血糖値については、常に変動しているため、本当に異常があるかどうかは食後血糖値を見ないと分かりません。
血糖値は、食後1時間前後で最大となり、2、3時間後には下がります。糖尿病の診断基準は、空腹時血糖126㎎/㎗とされていますが、そこで異常が見つかった場合は、糖尿病という診断のもと、もう治療が必要な状態です。
しかし、そうした病気という診断が下されるもっと前から、実は身体の中では異常が起こっていて、それを見逃していたり放置した結果、糖尿病となるわけです。その異常というのが、食後高血糖という状態です。
ある男性の食後血糖の測定結果です。
●食後0時間 血糖値 95㎎/㎗
●食後1時間 血糖値 195㎎/㎗
●食後2時間 血糖値 138㎎/㎗
●食後3時間 血糖値 102㎎/㎗
この結果から、どのような状況が考えられるでしょうか?
1時間後の食後血糖値が195㎎/㎗とかなり高値になっています。そこからまた血糖値が下がって正常化しています。これは、食べたものによって、急激に血糖値が上がっている状態で、これが「血糖スパイク」です。
血糖スパイクによってインスリンが大量に分泌されて血糖値が下がっていった、ということが考えられます。通常は、食後血糖値は140㎎/㎗くらいまでにとどまるのが普通なので、この例ではかなりの量の糖質の吸収があり、その結果、高血糖を下げようとして、過剰なまでのインスリン分泌が起こっているということになります。
このようなケースでは、空腹時採血のみで判断する普通の健康診断で「異常なし」と判定されることがほとんどです。
ですが、こうした血糖スパイクが、毎食後や毎日起こっているとしたら、これまで説明したような、肥満や膵臓の疲弊につながり、いずれ糖尿病を発症してしまうでしょう。
血糖スパイクの状態を極力減らすために、食事と運動を見直す必要があります。
食事に関しては、糖質の量を減らすことが必要です。糖質の摂取量を減らすことで、血糖値の上昇が抑えられるからです。また、ゆっくりよく噛んで時間をかけて食べることも大事です。急いで食べる、つまり短時間で糖を吸収することは、血糖スパイクにつながります。食物繊維などをしっかり摂ることもお勧めで、糖の吸収が穏やかになります。
また、食事の内容や食べる順番、食事にかける時間なども見直すことが大切です。あとは、運動です。あまり負荷の高い激しい運動はしなくてもよいですが、食後に軽い運動をするのもよいでしょう。食後1時間くらいの血糖値のピークに合わせて、30分ほどのウォーキングなどが効果的です。
運動する、すなわち筋肉を動かす際、筋肉細胞の中に糖が取り込まれ、それが筋肉を動かすエネルギーとなります。したがって、運動することで、細胞内への糖の取り込みがスムーズになるので、その結果、膵臓への負担を減らすことにもつながります。
平山 尚
医療法人奏仁会 理事長
大阪梅田紳士クリニック 院長
長谷田 文孝
大阪梅田健美クリニック 院長
南星クリニック 副院長
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