親の病院は「負動産」と同じ…子世代医師の進路変化
以前であれば、理事長の子は医師となって理事長の後を継ぐのが当たり前でした。医大を卒業して研修医から勤務医になり、勤務医時代は他地域、他病院に勤めていたとしても、いずれは地元に戻り、親の病院を継ぐのが常識だったのです。
現在でも、病院経営者の子は医大に進学して医師になるケースは多くあります。しかし、医師になったとしても親の後を継がない子世代が増えているという変化が生じています。
その理由はさまざまですが、一つには病院経営環境の変化があるでしょう(関連記事『クレーマー患者に、わがままスタッフ…病院が陥った危機的状況』で参照)。
以前なら、多くの病院経営者は安定した高収入を得ることができました。病院スタッフや地域住民から尊敬を集め、社会的なステータスも非常に高いものでした。
ところが、これまで見てきたように、それが多くの面で変わりつつあります。病院であっても、その経営者には高い経営能力と経営責任が求められる時代なのです。それがなければ現場のスタッフから非難されるなど、労務管理が難しくなっています。
もちろん、そういう病院経営をチャレンジングな事業だと考えて取り組む後継理事長も少なからずいますし、また優秀な経営成績を残す病院経営者もいます。一方では、医師として専門知識や技術を向上させることには熱心だけれども、経営にはさほど興味がもてないというタイプの人がいるのも事実です。
昔であれば、理事長の子がそういうタイプであっても、承継するのが常識だと考えられました。しかし価値観が多様化した現代に、親子といえども「常識だから」という理由で、進路を決めさせることは無理でしょう。
多額の費用がかかる病院建物の建て替え問題が近い将来に迫っている場合などは、病院の承継は資産の承継というより、負債の承継だととらえる子世代もいます。利用価値のない不動産の承継が「負動産」などと呼ばれて忌避されることが増えていますが、それに近い感覚かもしれません。
実際、現在の理事長が病院経営や労務管理で苦しんでいる姿を見ている子世代が、経営のことなど考えずに医師としての実力を高めていきたいと考えたり、リスクの高い病院経営をするより勤務医の待遇のほうが安定していて魅力的だと考えて、承継をしないことを選んだりしたとしても、それを責めたりはできないでしょう。
また、承継問題には、地域格差もあります。地方病院の子世代が東京などの都市部の医大を卒業して、そこで勤務医になった場合、魅力の減っている地方に戻りたがらないケースが増えているためです。都市部で結婚して、子どもをもった場合は特に、本人には戻る意志があっても、配偶者が子どもの教育環境や、リスクのある病院経営よりも安定した収入が得られる勤務医を続けてほしいといった理由で、大反対して戻れなくなるケースもあります。
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