今、病院経営について悩みや不安を感じていない病院経営者の方は、ほとんどいないでしょう。地域医療構想など医療行政の長期的変化、診療報酬改定、医療技術の高度化への対応、足元での収益力低下、厳しさを増す人材不足・採用難、経営者自身の高齢化、そして、後継不在。これらの経営課題を解決する選択肢として、今後「病院M&A」が急増する見込みです。ここではM&Aが有効な選択肢となりうるケースを紹介します。※本連載は、矢野好臣氏、余語光氏の共著『病院M&A』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

病院M&Aが「経営課題の解決策」になる、4つの代表例

病院M&Aは、それ自体が目的ではありません。現状の経営課題を解決して、地域に医療を残していくための一つの手段に過ぎません。では、どんなときに病院M&Aという手段が検討されるのでしょうか?

 

●後継者不在

 

今、病院M&Aが検討される理由で最も多いのが、後継者不在でしょう。一昔前であれば、病院理事長の子が医師の場合、いずれは現理事長の経営資源を引き継いで新理事長になるのが一般的でした。また、もし理事長の子が医師でなければ、子の配偶者(娘婿など)として医師を迎えて、その配偶者が理事長になることもありました。明らかに、病院は大きな資産であり、その理事長に就けることは一種の「特権」だったのです。子がそれを拒否することはレアケースであり、親もそれを当然と思っていました。

 

ところが時代は大きく変わりました。これについては前回の記事『「親の病院は継ぎたくない」廃院まっしぐら…地方開業医の窮状』(関連記事参照)で見たとおりです。「医師となった子が病院の後を継がないなど、考えもしなかった。それなのに…」といって相談に訪れる理事長は、あとを絶たないのが現実です。

 

●経営不振

 

経営不振の病院は、単に目先の収入を増やしたり費用を減らしたりして利益を出すことだけではなく、診療報酬の改定、地域医療構想の進展による病院の機能分化と連携などを踏まえた、長期的な経営ビジョンの策定や改革が求められます。しかし、以前と同じようなやり方では利益が出なくなったがどうすればいいか分からないと困惑する理事長も増えています。業績が悪化し、利益がほとんど出ない、あるいは赤字となっているがその建て直しの目処が立たないという場合、M&Aが検討されることは自然でしょう。

 

●経営者の事業意欲の減退

 

事業意欲の減退は、後継者不足や経営不振などを原因としてそこから派生する場合もありますが、家族の死などをきっかけにした精神的な不調など、個人的な事情で陥ってしまう場合も多々あります。理由はともあれ、経営トップの意欲が減退したままで経営を続けることは難しく、地域医療を残すためには、外部からの経営者の招聘や、M&Aが検討されるべきでしょう。

 

●事業の選択と集中

 

医療法人が複数の病院、事業を運営していることは珍しくありません。しかし、どの事業でも高い利益を出し続けるというのは、難しいものです。限られた経営資源を効率的に活用するため、また、不振事業分野を再生するためにも、M&Aで一部の事業を切り出して、強みが活かせる分野に経営資源を集中することは、一般的には正しい経営方針だと思われます。事業の切り出しのためには、事業譲渡というM&A手法も検討されます。

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医師・看護師を守り地域医療を存続させる病院M&A

医師・看護師を守り地域医療を存続させる病院M&A

余語 光

幻冬舎メディアコンサルティング

創業者利益の確保、後継者問題の解決、従業員の雇用継続など、病院存続のためには様々な経営者努力が必要なものです。本書籍では、東海エリアで実績No.1のコンサルタントが、数多くの成功・失敗事例をもとにM&Aのポイントを徹…

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