今、病院経営について悩みや不安を感じていない病院経営者の方は、ほとんどいないでしょう。地域医療構想など医療行政の長期的変化、診療報酬改定、医療技術の高度化への対応、足元での収益力低下、厳しさを増す人材不足・採用難、経営者自身の高齢化、そして、後継不在。これらの要素は、相互に関連しながら進展し日本の多くの病院経営を揺るがせています。病院経営者を悩ませているさまざまな問題を確認し、現状を分析。※本連載は、矢野好臣氏、余語光氏の共著『病院M&A』(幻冬舎)より一部を抜粋・再編集したものです。

中小病院は「より儲からない」状況へ…広がる収益格差

独立行政法人福祉医療機構の調査(※)によると、医療法人の2017年度と2018年度の平均事業収益を比べると、約33.6億円から約34.5億円と約0.9億円の増収となっています。また、平均事業利益率を見ても、約1.7%から約2.1%と0.4ポイント上昇しています。つまり医療法人全体の平均で見れば、わずかながら増収増益となっています。

 

ところが、赤字の医療法人の割合を見ると、22.5%から24.8%へと2.3ポイント上昇しており、約4社に1社が赤字経営です。また、事業収益規模が10億円未満の医療法人では、赤字割合は、24.2%から34.6%へと10.4ポイントも上昇し、約3社に1社が赤字です。

 

ここから分かることは、規模が大きな医療機関は、より高い収益・利益を上げている一方で、赤字に転落する医療機関が増えているということ。特に、規模が小さい医療機関ほど、経営が厳しくなっているということです。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

一口でいえば、収益性の格差が広がって「儲かる大病院はより儲かり、儲からない中小病院はより儲からない」状況となっているのです。

 

この背景には、ご存じのように診療報酬改定による収益力の変化や人件費の高騰などによる費用増もあるでしょう。

 

注)2014年度は消費税増税対応分を含む(これを含めないと本体部分は0.1%増)。2016年度の改定額は、2014年まで含めていた想定より売れた医薬品の価格引き下げも含めると実質マイナス1.03%。 参考資料:産経新聞2009.12.24、毎日新聞2012.12.22、2013.12.21、2015.12.22、2017.12.19、2019.12.18
[図表]診療報酬の改定率の推移 注)2014年度は消費税増税対応分を含む(これを含めないと本体部分は0.1%増)。2016年度の改定額は、2014年まで含めていた想定より売れた医薬品の価格引き下げも含めると実質マイナス1.03%。
参考資料:産経新聞2009.12.24、毎日新聞2012.12.22、2013.12.21、2015.12.22、2017.12.19、2019.12.18

 

 

そもそも、諸外国に比べて日本の病院は数が多過ぎるという点は、従前より指摘されています。実際、20年前の2000年には国内に9200院以上あった病院数は、毎年減り続け、2018年には8400院を割り込んでいます。

 

機能別に見ると、急性期、慢性期の病床については、相対的に過剰とされ、地域医療構想においてはその縮小、ならびに回復期機能の充実が提言されています。

 

特に、慢性期病床を中心としていた中小病院については、地域包括ケアシステムにおける自院の役割・ポジショニングを見極めることが重要となっています。

 

足元の収益性が悪化しているなかで、長期的な変化も見据えて病院経営の舵取りをしていかなければならない現代の病院経営者には、大きな責任と苦難があるのです。

 

 「2018年度医療法人の経営状況について」独立行政法人福祉医療機構

 

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医師・看護師を守り地域医療を存続させる病院M&A

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余語 光

幻冬舎メディアコンサルティング

創業者利益の確保、後継者問題の解決、従業員の雇用継続など、病院存続のためには様々な経営者努力が必要なものです。本書籍では、東海エリアで実績No.1のコンサルタントが、数多くの成功・失敗事例をもとにM&Aのポイントを徹…

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