認知症父がお金の心配する原因とは
作戦失敗!「株」と「蕪」
最近、お金の話ばかりをするようになったじーじ。どうやら自分が亡くなったあと、残される私たちのお金のことを心配しているようだが、心配している相手は、来月還暦を迎える私(あ~やだやだ)と、還暦に手が届きそうな弟と、アラサーの孫である。
ありがたいことではあるが、じーじはお金のことになると認知星人のパワーが倍増され、解決不能と思われることを要求してくるので私にとっては少々厄介なのである。
ある日、夕飯の準備ができたのでじーじに声をかけたが、両手で頭を抱えて微動だにせず返事もしない。じーじが認知星人に変身する際には、必ず決まったポーズをするのだが、この日のポーズはいつもとちょっと違う。まさか、新しい認知星と交信しているのか!などと思っていると、突然、
「大変だ、株で7千500万円の損失を出してしまった。どうしたらこの損失分を補填できるのか……」
と、まるで、会社の経理担当者のような発言。だが、じーじは株の売買はしていないが、そこは否定せず……。
「そうかぁ。それは大変だ! まあ、夕飯を食べてからゆっくり考えようね」と、話をそらしてみたものの、食事の途中でも「株~、株~」と株を連呼。じーじの大好きなにごり酒を献上しても「株~、株~」と一向に株から離れる様子はない。ついには、朝刊を取りに行き、ラインマーカーを片手に、株価の掲載欄にピンクや黄色の線を引き、じっと見つめては、またまた、頭を抱えてしまうではないか。
ここで私が何かを言うと、事件が勃発しそうなので、聞こえないふりをしてみた。
その後も「株~、株~」と言っていたがこの日は何事も起こらなかった。しかし、その後もほぼ毎日、「株~、株~」と言いながら頭を抱えていたが、ついに「おい、株を買ってこい」との指令が!
……ピカッとひらめいた!
指令を受けた私は、即スーパーに行き「蕪」を買い、じーじに「蕪買ってきたよ」と差し出すと、「味噌汁にしろ」とじーじ。やった! これで「株~、株~」の呪縛から逃れられると思ったのもつかの間。また、「株~、株~」を連呼。
今回の作戦は見事に失敗に終わったのであった。