
改正相続法を物語で読み解く本連載。物語は、開港市で果実業を営んでいた被相続人・寺田信太郎の死亡から始まる。妻・愛子は早々に遺言書を発見し「うちは骨肉の争いにはならない」と安堵する。息子たちはといえば、二男・祐人は「父はきっと自分に畑をくれる」と確信する一方、長男・真人は父の遺産を住宅資金に充てることを目論み、貸金庫にも目を付けていた。早々にお金の話をする長男に呆れつつも、相続人たちは貸金庫を開けることに。中から出てきたのはなんと「もう1つの遺言書」だった。父の遺志を確認するため、相続人たちは遺言書の検認に臨む。※本連載は、片岡武氏、細井仁氏、飯野治彦氏の共著『実践調停 遺産分割事件 第2巻』(日本加除出版)より一部を抜粋・再編集したものです。
父・信太郎の遺言書を開封するため、家庭裁判所へ
祐人は、義妹・愛子を連れて、開港家庭裁判所に向かった。高齢の母・愛子には自宅にいるように言ったが、どうしても行きたいと言い張るので、一緒に出かけることにした。
開港家庭裁判所は、開港市の中心部にある「開港駅」で乗り換え、2つ目の「岩崎町」で下車し、川沿いを5分ほど歩いたところの白色の3階建ての建物である。弁護士の鈴木がロビーで待っていた。
「おはよう。お疲れ様」
「兄貴は?」
「先に来ているよ。さっき挨拶しておいたよ。待合室にいるはずだよ」
「何か言ってなかったか?」
「何にも言ってなかったけど…。でも、ピリピリした雰囲気だったけど、何かあったのか?」
「まあ、色々とね。待合室で一緒になるのは嫌だから、俺たちはここで待つよ」
「分かった。声をかけられたら、呼びに来るから」
「頼んだ」
鈴木は、階段を駆け上がっていった。
しばらくすると鈴木が上から降りてきて、階段の途中から手招きした。
「もう呼ばれたよ。第1審判廷に入ってくれ」
祐人は、愛子の手を引いて、2階まで行った。
2階に付くと赤いランプの付いた「第1審判廷」という文字が目に入った。中に入ると、既に長男・真人が腕組みして着席していた。
「愛子さん、真人さん、祐人さんの順でお掛けください」
裁判所の職員と思われる男性が祐人に声をかけてきた。
