父急逝で「遺産分割事件」は調停へ…裁判所で聞かれることは?

改正相続法を物語で読み解く本連載。今回のテーマは「遺産分割事件の調停」。遺産分割手続は【相続人の範囲⇒遺言書の有無・効力⇒分割協議書の有無⇒遺産の範囲⇒…】という流れで進みます。順番を前後させることはできません。各事案において争いが生じた場合、調停の申立てや裁判など他の手続きを先行して行う必要があります。※本連載は、片岡武氏、細井仁氏、飯野治彦氏の共著『実践調停 遺産分割事件 第2巻』(日本加除出版)より一部を抜粋・再編集したものです。

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(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

~あらすじ~

父の遺産をめぐり対立した兄弟。自宅購入のため資金確保を急いでいた長男・真人は、遺産の畑を売却するため、家庭裁判所に「遺産の一部分割」を求める調停を申し立てた。

 

畑の存続を望む二男・祐人は、友人の鈴木弁護士とともに調停に臨む。第1回調停期日のテーマは、遺言書の有効性、遺産の範囲の確定などの前提問題。

まずは「前提問題」の確認…第1回調停期日

調停委員・杉浦「前提問題からお伺いします。遺言書が3通ありますが、これらについては、どのように考えますか」

 

弁護士・鈴木「内容的には、被相続人・信太郎さんの意思が反映されていると思っています。できれば仏壇にあった『二男祐人に全部相続させる』又は相続分を『妻愛子2分の1、祐人2分の1と指定する』旨の遺言書の内容に従って分割できればと思っています。もっとも、形式面に不備があり、無効もやむを得ないと考えていますが…」

 

長男・真人「親父の字であると思うけど、自分の相続分を零とする分け方は納得できません」

 

当事者間においては、遺言書が無効であることにつき争いがなくなった。

 

杉浦「遺言とは別に当事者間で分割協議をして、まとまったということはないですよね?」

 

全員が頷いた。当事者間において、遺産分割協議が未了であることについても争いがないことが明らかになった。

「一部分割を求める理由は?」申立ての趣旨を確認

調停委員・石原「では、今回の申立ての趣旨について、申立人の真人さんにお伺いします。今回は、一部分割を求めていますけど、先に目録1、2の土地(キウイ畑)を分割したい理由を教えてください」

 

真人「親父の土地として、みかん畑とキウイ畑があるけど、キウイ畑を早く売却したいんだよね。僕は建築業界にいるんだけど、親父が亡くなってしばらくして、業者からキウイ畑を売ってくれっていう話も来ているんです。話をしたら乗り気で、買取りの見積書もくれました」

 

石原「他にも不動産として、みかん畑もありますが、それも今回の話合いの中で一緒に解決するということは考えていないのですか」

 

真人「遺産分割事件って、解決するのに何年もかかるって言うじゃないですか。みかん畑は斜面にあるので、すぐには売れないと思いますよ。だったら、買い手がいるキウイ畑だけ先に売った方が皆にとっていいんじゃないかなって思っている…」

 

なるほど、そういうことか。杉浦はうなずいた。

 

祐人「兄貴は『売る売る』って言っているけど、俺は売る気はないからな」

 

石原「ちょっと待ってください。今は、遺産の範囲を確認する段階です。分割方法は少し待ってくださいね」

 

石原は口論になりそうなところを割り込んでいった。

 

杉浦「真人さんの言い分は分かりました。確認しますが、遺産の全部を分割するというお気持ちはないんですね」

 

真人「全部分割を求める気持ちはありませんね。キウイ畑を早期に現金化して分割したいだけです」

 

石原「相手方の皆さんはどうしますか?」

 

鈴木「我々としては、農業の継続を望んでいるので、あくまでも全部分割を希望します」

 

真人「全部分割が終わるのを待つなんて、時間がかかりすぎるよ」

 

石原「ちょっと待ってください」

 

鈴木「全部分割は、利彦君を含めた相手方全員の総意です」

 

石原「双方のご主張は、大体分かりました。では、相手方の皆さんが主張される遺産の範囲をお伺いします。石原の言葉に双方が頷いた。

 

石原「真人さんはしばらく待合室でお待ちください」

 

真人は席を外した。

 

 

千葉法律事務所 弁護士

元東京家庭裁判所部総括判事。

1954年生まれ。千葉地方裁判所、新潟地方・家庭裁判所長岡支部、旭川地方・家庭裁判所、東京地方裁判所、青森地方・家庭裁判所八戸支部、東京家庭裁判所、札幌高等裁判所、横浜家庭裁判所での勤務を経て、東京家庭裁判所家事第5部(遺産分割)部総括判事。2019年退官。

裁判官時代、家事事件の中でもとくに遺産分割事件に多く携わる。当事者の納得を得られる調停運営やウィットに富んだ講演に定評がある。2010年に『家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務』の刊行以来、相続分野における著作を多数刊行。

【主な著書等】
『家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務』編著、日本加除出版
『家庭裁判所における成年後見・財産管理の実務』共著、日本加除出版
『改正相続法と家庭裁判所の実務』共著、日本加除出版
『実践調停 遺産分割事件 ―物語から読み解く調停進行と実務―』共著、日本加除出版
『実践調停 面会交流 ―子どもの気持ちに寄り添う調停実務―』共著、日本加除出版
『実践調停 遺産分割事件 第2巻 ―改正相続法を物語から読み解く―』共著、日本加除出版

著者紹介

静岡家庭裁判所 次席書記官

1961年生まれ。東京家庭裁判所、横浜家庭裁判所、知的財産高等裁判所等での勤務を経て、2020年現在、静岡家庭裁判所次席書記官。

書記官実務の中でも、とくに家事事件全般に多く携わった家事事件のエキスパート。『実践調停』シリーズでは主に物語部分を手がける。理論的で精緻な筆致と柔らかな感性で色彩豊かなストーリーを描く。

【主な著書等】
『実践調停 遺産分割事件 ―物語から読み解く調停進行と実務―』共著、日本加除出版
『実践調停 遺産分割事件 第2巻 ―改正相続法を物語から読み解く―』共著、日本加除出版

著者紹介

横浜家庭裁判所 次席家庭裁判所調査官

1960年生まれ。東京家庭裁判所、横浜家庭裁判所、札幌家庭裁判所等での勤務を経て、2020年現在、横浜家庭裁判所次席家庭裁判所調査官。

家庭裁判所の家事事件、少年事件などの調査を行う家庭裁判所調査官の視点から、とくに、介護や特別寄与の関係を細やかに描く。当事者にとって最もよいと思われる解決方法を検討し、心理的な援助を行うプロフェッショナル。

【主な著書等】
『実践調停 遺産分割事件 ―物語から読み解く調停進行と実務―』共著、日本加除出版
『実践調停 遺産分割事件 第2巻 ―改正相続法を物語から読み解く―』共著、日本加除出版

著者紹介

連載小説「実践調停 遺産分割事件」 ~ストーリーで読み解く改正相続法

本連載における「改正法」は、「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成三〇年法律第七二号)」をさします。

実践調停 遺産分割事件 第2巻 改正相続法を物語で読み解く

実践調停 遺産分割事件 第2巻 改正相続法を物語で読み解く

片岡 武

細井 仁

飯野 治彦

日本加除出版

特別寄与料、配偶者居住権、預貯金の払戻しなど改正相続法に則した実務が理解できる! 改正相続法下の遺産分割の解決手法をストーリーと解説で描いた一冊。 <ストーリー> みかん農家を営む寺田信太郎が死亡し、仏壇の…

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