亡父の口座から500万円が…「車を買い替えた」長男に疑惑の目

改正相続法を物語で読み解く本連載。今回のテーマは「遺産の範囲」。父の遺産をめぐり対立した兄弟。自宅購入のため資金確保を急いでいた長男・真人は、遺産の畑を売却するため、家庭裁判所に「遺産の一部分割」を求める調停を申し立てた。畑の存続を望む二男・祐人は、友人の鈴木弁護士とともに第2回調停期日に臨む。※本連載は、片岡武氏、細井仁氏、飯野治彦氏の共著『実践調停 遺産分割事件 第2巻』(日本加除出版)より一部を抜粋・再編集したものです。

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(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

~あらすじ~

父の遺産をめぐり対立した兄弟。自宅購入のため資金確保を急いでいた長男・真人は、遺産の畑を売却するため、家庭裁判所に「遺産の一部分割」を求める調停を申し立てた。

 

一方、二男・祐人は畑を継ぐことを望み、兄の申立てに反対する。第1回調停期日では真人が一部分割に拘ったことから、後日、祐人の友人である鈴木弁護士は「全部分割」を求める追加の申立てを行った。

鈴木弁護士が「全部分割の申立て」を提出し…

「鈴木弁護士が提出した申立書をお読みになって、気を付ける点はありますか?」

 

控室で記録に目を落としていた調停委員・石原は、同じく調停委員・杉浦の声に顔を上げた。

 

「ちょうど今読んでいたところです。遺産の概要は、みかん畑とキウイ畑の農地、自宅の土地建物、それと金融資産などですね」

 

「分割方法は、農地は祐人さんで、自宅は母・愛子さんで、残りは真人さんと甥・利彦さんって感じですかね」

 

杉浦が話を続けようとした。

 

「そこは先走りしない方がいいですよ。とりあえず遺産の範囲を確定しましょう。預金の引き出しとか、色々あるらしいですから」

 

「すみません。石原さんのおっしゃるとおりですね。分割方法ばかりに目がいっちゃいけないですよね」

 

頭では分かっているんだが、実際に調停を担当すると原則を忘れがちになるな。気を付けないとだめだな。杉浦は頭をかいた。

 

「では、調停室に向かいましょう」

 

石原は、記録を手に持って控室を後にした。

 

――第2回調停期日の事前評議が行われた。山崎裁判官からは、本件は、預貯金の引き出しが問題になっているので、その言い分を聞くこと、もし、使途不明金の問題であるならば、①預貯金の引き出しが相続開始前か、開始後の問題か、②処分者は誰か、③引き出しを認めるのかを整理するようとの指示があった。

第2回調停期日…まずは「全部分割の申立て」の確認

石原「双方同席の上で調停を進めましょう。私が呼んできます」

 

――双方当事者がともに調停室に入った。

 

石原「では、調停を始めます。前回の調停期日では、前提問題のうち、遺言書の効力については、無効と考える方向で一致しました。今日は、遺産の範囲について話合いをし、確定したいと考えています。よろしくお願いします。また、期日間に、愛子さんと祐人さんから、全部分割の申立てがなされました。裁判所としては、遺産を全部分割するという方向で進行します。ご理解ください。真人さんが先に一部分割の申立てをしていますので、真人さんを申立人、愛子さんらを相手方とお呼びすることになります」

 

真人「分かりました。向こうが全部分割の申立てをした以上は仕方ない。早期に分割ができるのであれば全部だって、一部だって構いませんよ。くれぐれも早くやってください」

 

真人は、石原の話にふてくされて答えた。利彦は黙って頷いた。

「遺産の範囲」を確定

(1)不動産の範囲

 

杉浦「では、遺産の範囲から確認していきましょう。不動産については、4筆の土地がありますが、千広町のキウイ畑2筆と米田町のみかん畑1筆ですね。それに鶴岡の土地1筆とその上物の建物1棟がありますが、これは自宅ですね。これ以外に不動産はありますか?」

 

鈴木「私が不動産登記簿や名寄帳で調べた限り、これらが不動産の全てです」

 

真人「俺もこれで全部だと思うよ」

 

石原「では、不動産はこれで確定できますね。他の遺産も確定できたら、併せて調書に取らせてもらいます」

葬儀費用が足りず「預金150万円の払戻し」を受けた妻

(2)預貯金の範囲

 

石原「では、預貯金等目録に沿って確認していきます」

 

杉浦「まず、かいこう銀行鶴岡駅前支店の普通預金ですが、死亡時に900万円ありましたが、死亡後に150万円が引き出されていますね。これは愛子さんが払戻しを受けたということでよろしいですか」

 

鈴木「はい。これは愛子さんが、葬儀費用に充てるために、死亡後、銀行にお願いして限度額である150万円の払戻しを受けました」

 

杉浦「葬儀費用の負担については、また後で議論するとして、かいこう銀行の普通預金の現在残高は750万円ということで皆さんよろしいですね。あと、かいこう銀行の定期預金、霧笛信用金庫米田支店のスーパー定期預金も目録のとおりでよろしいですね。真人さん、利彦さん、どうですか」

 

全員が頷いた。

<改正法Q&A>預貯金の払戻しがされた場合の効果は?

遺産の分割前において改正法の規定に基づき権利行使がされた預貯金債権については、その権利行使をした共同相続人が遺産の一部分割によりこれを取得したものとみなされます(民909条の2後段)。

 

■ポイント:払い戻された預貯金の表記

本件においては、払戻しをした愛子さんが(払い戻した預貯金である)一定額の現金を保管しているものと表記しています。表記の方法として①「現金150万円(愛子保管)」、②「払い戻された預金150万円(愛子払戻し)」が考えられます。

真人が引き出した「父の500万円」…何に使ったのか?

(3)使途不明金の問題

 

杉浦「ところで、霧笛信用金庫米田支店についてですが、死亡時には350万円の定期預金と500万円の定期預金があったようです。祐人さん側の主張では、死亡後に、真人さんが500万円の方を解約し、お金を引き出し、取得しているとのことですね。鈴木代理人、このようなご主張ですね」

 

鈴木「はい。お金の移動は、取引履歴を確認済みです。霧笛信用金庫の取引履歴を提出いたしました」

 

杉浦「真人さん、いかがですか」

 

真人「確かに引き出したことは認めるよ。何かと入用になるから下ろしただけだよ。親父の借金の請求がきたから、それも払った。あんまり残ってないよ。残った分は遺産に戻すよ」

 

祐人「親父のために使ったみたいなこと言ってるけど、この前、車を買い替えたりしてるじゃないか。自分のために使ったんじゃないのか」

 

祐人は、真人に対し、強い口調で言った。

 

鈴木「ここでムキになってもしょうがないよ。真人さんから次回までに使途の明細を出してもらおうよ。反論はそれを見てからってことにしよう」

 

杉浦「そうですね。被相続人のために使用しているのであれば、争いはなくなりますので、真人さんに説明していただく必要がありそうですね。真人さん、いかがですか」

 

真人「変な疑いをかけられるのも嫌なので、次回までに調べて書面を提出しますよ」

 

憮然とした表情で答えた。

 

杉浦「では、いつ頃までに回答できますか? 次回期日は回答期限の1週間後にしましょう。預金以外の遺産は確定したということでよろしいですか?」

 

全員が頷いた。第3回調停期日が決まり、第2回調停期日が終了した。

<改正法Q&A>相続開始後の財産処分(使途不明金)

改正前民法下では、共同相続人が遺産分割前にその共有持分を処分した場合において、どのような処理をすべきかについて、明文の規定はありませんでした。また、これに言及した判例もありません。

 

他方で、判例(最1小判昭和54年2月22日集民126号129頁)、裁判例(高松高判平成11年1月8日家月51巻7号44頁、福岡高那覇支判平成13年4月26日判時1764号76頁)及び実務においては、遺産分割時には存在しない財産であっても、共同相続人の全員がこれを遺産分割の対象に含める旨の合意をした場合には、例外的にこれを遺産分割の対象とする取扱いをしていました。

 

このような取扱いについては、共同相続人の全員がこれを遺産分割の対象に含める旨の合意がない場合には、遺産分割の対象とすることはできないことになり、当該処分をした者の最終的な取得額が、当該処分をしなかった場合と比べると大きくなり、その反面、他の共同相続人の遺産分割における取得額が小さくなるという計算上の不公平が生じるのではないかという問題が指摘されました。

 

そこで、民法906条の2は、遺産分割前に遺産に属する特定の財産を共同相続人の1人が処分した場合に、処分した者が処分をしなかった場合と比べて利得をすることがないようにするため、遺産分割においてこれを調整することを容易にする規定を設けるものとしました。

 

すなわち、民法906条の2第1項は、共同相続人全員の同意によって遺産分割前に処分された財産についても遺産分割の対象財産にすることを認めることとした上で、同条2項では、一部の共同相続人が遺産分割前に当該処分をした場合には、遺産分割時に当該処分をした財産を遺産に含めることについて他の共同相続人の同意があれば、当該処分をした当該共同相続人の同意がなくても、これを遺産分割の対象として含めることができるものと規定しました。

 

 

 

片岡 武 

千葉法律事務所 弁護士(元東京家庭裁判所部総括判事)

 

細井 仁

静岡家庭裁判所次席書記官

 

飯野 治彦

横浜家庭裁判所次席家庭裁判所調査官

 

 

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千葉法律事務所 弁護士

元東京家庭裁判所部総括判事。

1954年生まれ。千葉地方裁判所、新潟地方・家庭裁判所長岡支部、旭川地方・家庭裁判所、東京地方裁判所、青森地方・家庭裁判所八戸支部、東京家庭裁判所、札幌高等裁判所、横浜家庭裁判所での勤務を経て、東京家庭裁判所家事第5部(遺産分割)部総括判事。2019年退官。

裁判官時代、家事事件の中でもとくに遺産分割事件に多く携わる。当事者の納得を得られる調停運営やウィットに富んだ講演に定評がある。2010年に『家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務』の刊行以来、相続分野における著作を多数刊行。

【主な著書等】
『家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務』編著、日本加除出版
『家庭裁判所における成年後見・財産管理の実務』共著、日本加除出版
『改正相続法と家庭裁判所の実務』共著、日本加除出版
『実践調停 遺産分割事件 ―物語から読み解く調停進行と実務―』共著、日本加除出版
『実践調停 面会交流 ―子どもの気持ちに寄り添う調停実務―』共著、日本加除出版
『実践調停 遺産分割事件 第2巻 ―改正相続法を物語から読み解く―』共著、日本加除出版

著者紹介

静岡家庭裁判所 次席書記官

1961年生まれ。東京家庭裁判所、横浜家庭裁判所、知的財産高等裁判所等での勤務を経て、2020年現在、静岡家庭裁判所次席書記官。

書記官実務の中でも、とくに家事事件全般に多く携わった家事事件のエキスパート。『実践調停』シリーズでは主に物語部分を手がける。理論的で精緻な筆致と柔らかな感性で色彩豊かなストーリーを描く。

【主な著書等】
『実践調停 遺産分割事件 ―物語から読み解く調停進行と実務―』共著、日本加除出版
『実践調停 遺産分割事件 第2巻 ―改正相続法を物語から読み解く―』共著、日本加除出版

著者紹介

横浜家庭裁判所 次席家庭裁判所調査官

1960年生まれ。東京家庭裁判所、横浜家庭裁判所、札幌家庭裁判所等での勤務を経て、2020年現在、横浜家庭裁判所次席家庭裁判所調査官。

家庭裁判所の家事事件、少年事件などの調査を行う家庭裁判所調査官の視点から、とくに、介護や特別寄与の関係を細やかに描く。当事者にとって最もよいと思われる解決方法を検討し、心理的な援助を行うプロフェッショナル。

【主な著書等】
『実践調停 遺産分割事件 ―物語から読み解く調停進行と実務―』共著、日本加除出版
『実践調停 遺産分割事件 第2巻 ―改正相続法を物語から読み解く―』共著、日本加除出版

著者紹介

連載小説「実践調停 遺産分割事件」 ~ストーリーで読み解く改正相続法

本連載における「改正法」は、「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成三〇年法律第七二号)」をさします。

実践調停 遺産分割事件 第2巻 改正相続法を物語で読み解く

実践調停 遺産分割事件 第2巻 改正相続法を物語で読み解く

片岡 武

細井 仁

飯野 治彦

日本加除出版

特別寄与料、配偶者居住権、預貯金の払戻しなど改正相続法に則した実務が理解できる! 改正相続法下の遺産分割の解決手法をストーリーと解説で描いた一冊。 <ストーリー> みかん農家を営む寺田信太郎が死亡し、仏壇の…

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