~あらすじ~
父の遺産をめぐり対立した兄弟。自宅購入のため資金確保を急いでいた兄は、遺産の畑を売却するため、家庭裁判所に「遺産の一部分割」を求める調停を申し立てた。
調停の当日…調停記録を確認する石原委員
調停委員の石原は、担当することになった遺産分割調停事件の調停記録を調停委員控室で読み始めた。遺産分割は、もう何件も経験しているので、調停記録の読み方も手慣れたものだった。相続人の範囲、遺産分割協議の有無等を確認した後、遺言書の有無の確認に入った。
考えながら、調停記録を読み進める。争点は遺言書の効力かな? 検認の記録も見たが、形式面において無効の可能性が高いようだ。
申立人は遺産の範囲について、2筆の畑の一部分割を求めているけど、他の相続人は畑以外の遺産があると主張しているし。寄与分の主張もありそう。特別受益は?
「あまり先走りは良くないわね」
遺産分割調停事件を長くやっていると、ついつい、先走るようになる。そういえば、調停協会の研修で教わったなあ。当事者が分割方法の解決を希望するので、その希望に応じて、基礎を固めずに分割方法に取りかかってしまうと、後に範囲や評価でもめて、結局、最初からやり直さないといけないことになると。石原も何度か経験した。しっかり基礎を固めていけば、複雑困難な案件でも、早期に解決する。
「先日の研修の資料をもう一度、読み直した方がいいわね」
そうつぶやいて調停記録を閉じた。
今回の案件は、相続法が改正されてから、石原が初めて担当する事件だ。調停記録の検討を終えた石原は、書記官室に調停記録を戻しに行った。
「ご苦労様です。控室で杉浦委員にお会いになりませんでしたか」
「杉浦さんですか? 見かけませんでしたよ」
「杉浦委員も調停記録を見たいって言っておられましたので…」
石原は、今回の相調停委員である杉浦とはこれまで一緒に調停を行ったことはなかった。研修や勉強会ではよく見かけるので、熱心な方だという印象はあったのだが…。
「あっ。石原さん」
大きな声が聞こえたので、振り返ると、汗だくのがっしりした男性が笑顔で立っていた。杉浦だった。
「私も控室で調停記録を読んできます」
事前評議で調停期日の「テーマ」を確認
「石原さんとは、初めてですね。遺産分割はほとんど経験していないので、よろしくお願いします」
「こちらこそお願いします。初めてなんですか? でも、勉強会ではよくお見かけしますよね」
「頭でっかちなところがあるんで、まず理屈からって思って参加させていただいています。記録、もうお読みになったんですよね? 何か気が付かれたことはありますか?」
本当に勉強熱心な方だ。石原は要点を話した。
「相続法改正に関わる問題も色々ありそうですね。研修とかで学んだように基本通り進めていくしかないですね」
「おっしゃるとおりです」
豪快な外見に比べて、細やかな思考の方だな。うまくやっていけそうな気がする。石原と杉浦は調停室に向かった。
「遺産は他にあるんでしょうか」
記録をめくりながら石原に話しかけた。
「相手方らは、他に預金があると書いてありますけど、今日の期日で聞いてみないと…」
石原が話を続けようとしてると、調停室のドアが開いて、山崎裁判官と稲葉書記官が入ってきた。
「お2人には調停記録をお読みいただいていると思いますが、本件は、一部分割の申立てなので、一部分割の申立てをした理由を聞き、相手方の意向を確認して、全部分割を求めるならば、まず申立人に拡張するかを確認し、拡張しない場合には相手方に申立てを促すことにしましょう。相手方らには追加の申立てを、その上で申立人には申立てを拡張するか否かを検討するよう促してください」
「分かりました。双方の意見を聞いてみます」
「寄与分の主張がありそうですが」
「まずは、遺産の範囲を確認することから始めましょう。特に、今回は、遺言書もあり、一部分割の申立てなので、当事者の意向によっては前提問題の整理に時間を要するかもしれませんね」
「分かりました」
「それでは、フローチャートによる事前の説明からよろしくお願いします」
山崎と稲葉は調停室を出て行った。
「裁判官の言うとおり、今日のテーマは、遺言書の有効性、遺産の範囲の確定など前提問題ですね。じゃあ、当事者を呼んできますね」
杉浦は、そう言うと、待合室に向かった。
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