
改正相続法を物語で読み解く本連載。物語は、開港市で果実業を営んでいた被相続人・寺田信太郎の死亡から始まる。長男・真人は父の遺産を住宅資金に充てることを目論んでおり、貸金庫にも目を付けていた。開扉には相続人全員の実印が必要であることから、他相続人たちに連絡を取る。一方、相続人たちは長男に不信感を抱いていた。二男・祐人は、高校時代の友人である鈴木弁護士に相談しに行くことに…。※本連載は、片岡武氏、細井仁氏、飯野治彦氏の共著『実践調停 遺産分割事件 第2巻』(日本加除出版)より一部を抜粋・再編集したものです。
「父の相続について…」友人・鈴木弁護士への相談
「この間の同窓会は楽しかったよな。祐人とは、高校時代、柔道部で同じ釜の飯を食った仲だから、できるだけ力になるよ」
昔を懐かしんで話す弁護士の鈴木知広は、高校時代より更に恰幅が増した感じがする。
「今日は、お袋と弟の嫁さんを連れてきたよ。皆一緒に話を聞いた方がいいと思ってな」
鈴木弁護士の事務所は、開港家庭裁判所から徒歩5分程度のところにあった。祐人は、応接室のソファーに座り、封筒から書類を取り出し、父・信太郎が亡くなって長男の真人から連絡があるまでの経緯を話し始めた。
「なるほどね。遺産は、畑、自宅の土地建物、株式、預金が主なところだね。それと貸金庫があるなら、中を調べないとな。一番の問題は、お父さんがどのような遺言書を残しているかだね。ちょっとその封筒を見せてくれないか」
祐人は、鈴木に「遺言書」と書かれた封筒を渡した。
「1週間くらい前に、仏壇を掃除した際にお袋が発見したんだ」
鈴木は、渡された封筒を手に取った。手にずっしりとした重みを感じた。封筒の裏には、日付の脇に信太郎の自筆と思われる文字で「開封は家庭裁判所で行うこと 寺田信太郎」と記載され、名下に押印がされていた。
「これはお父さんの遺言書のようだね」
「すぐにでも開封したい気持ちもあるんだが、なにせ家庭裁判所で開封しろと書いてあったものだから」
「確かに、遺言書を開封するには、家庭裁判所に遺言書の検認申立てをして、その期日で開封することになっているからな。申立ての準備をしたり、お兄さんや他の相続人に通知をするから、少し時間がかかるんだよ。あと、注意してほしいのは、検認をしたからといって遺言の有効性が確認されるものではないからね」
「やっぱり弁護士のお前でも勝手に開封ってわけにはいかないんだ」
祐人は少しがっかりした表情をした。
「ところで確認するけど、他に遺言書はないのかい」
「多分、実家にはないと思うよ」
「あと遺言書があるとしたら貸金庫の中か。」
