「うまないで欲しい」「うませて欲しい」隠し子を…
産業用器機メーカーである二階堂機械の社長、二階堂義広(仮名)には隠し子がいた。以前から付き合いがある女性、木下華子(仮名)の子供、義男(仮名)だ。
子供が出来た時には「うまないで欲しい」と伝えたのだが、華子は「あなたには迷惑をかけないからうませて欲しい」と泣きながら訴えてきたため二階堂社長は腹をくくった。ただ、ひどく身勝手ではあるが、この子のことを妻だけには知られたくなかった。
義男がうまれても華子から認知を迫られることは一度もなかった。それどころか、華子と二階堂社長が会うことはほとんどなくなり、自然と不倫の関係は終わっていった。
二階堂社長は責任を感じ、別れてからも何度となく援助の打診をしたが、華子はかたくなに断っていた。しかし、いつしか社長の押しの強さに負けて、義男が幼稚園に入るときから少しばかりの援助を受けるようになった。
二階堂社長は義男がとても可愛かった。いつも遠くから元気な姿を見ていると、華子に「うまないで欲しい」と言ったことをひどく後悔した。義男が小学校に入学する時には新入生が必要なもの一式を買い揃えてあげたが、ランドセルに書いてある名前が「二階堂義男」ではなく「木下義男」であることに何とも言えない気持ちになっていた。
そんな時、「名前は変えなくとも認知だけは……」と思うのだが、事業承継のことを考えると、どうしていいのかわからず、結局、認知ができずにいた。