「働き方改革」の基本となる考え方とは
「医師の働き方改革」を手掛けたことで赴任後、2年半程で医局員が定時の5時には帰宅できるようになるという、着任時には予想もできない職場環境が実現しました(第11回参照)。
本連載タイトルである「仕事の流れを変えれば医師でも定時に帰宅できる」は、静岡病院で推進してきことを端的に表したフレーズです。
「部下がどの様なことで困っているかについてヒアリングしてきてください」等というコーチングで出された宿題を何度もこなすうちに、いつの間にか現場のニーズが見えるようになってきたのです(第4回参照)。
その「現場のニーズに応えて仕事の流れを変える」べく、病院内外の様々な方々に働きかけ、協力を得られるようになるにつれて、年間1000時間以上の残業を抱えていたであろう医局員たちも定時に帰宅できるようになったのです。
「まずは現状と理想のギャップを明らかにして、その差分を埋め合わせていく」ことを、コーチングでは「コーチングフロー」や「GROWモデル」と呼びます。今振り返ると、私は2年半かけて、医局員等へのヒアリングやフィードバックで得られた課題や要望と、現実のギャップを埋めることにただひたすら取り組んできた気がします。
ここからは総論として、「医師の働き方改革」を進めるにあたって、私が行ってきた「現場のニーズに応え、仕事の流れを変える」ことについての工夫や考え方について6回に分けてお伝えしていきたいと思います。
フィードバックで優先順位、課題が明らかに
赴任直後から1年半、コーチングを本格的に学んでいたことは、すでにお話しをしました。1年半のコースと並行し、プロフェッショナル・コーチ(プロコーチ)にも半年間ほど1on1コーチングをうけ、医局内の組織開発についてより具体的に自分の考えをまとめるように努めました。
そこで、最初に出された宿題が「現場の医療関係者30人から、まずは糖尿病内科の現状についてフィードバックをもらってきてください」でした。ちなみに、フィードバックとは、対象者が目的に向かって取り組んでいる状況をみて、他者が指摘や評価、アドバイスすることをいいます。
一口に30人といいますが、これはかなりの数です。「30人」と聞いて当初は正直、大変面食らいました。しかし、「ここまできたら、やるしかない」と腹を括り、医局員3人を始め、病棟看護師長、外来看護主任、栄養科長、病棟薬剤師、内科医局長、内科秘書、病院長、診療部長、医事課、地域連携室などといった、院内のステークホルダーはもちろん、静岡県東部エリアで開業されている糖尿病専門医の先生方などあらゆる方面の医療従事者に、我々の診療科について忌憚のないご意見やフィードバックを尋ねて回りました。