国の方針で高級路線で評価が上がる特養の矛盾
私が介護付き有料老人ホームの現場職員だったころも、「特養は気が利かないので病院受診に職員が同行してくれない」とか「特養は入浴者をあらかじめ裸にしてから浴室の前の廊下に一列に車いすで並べている」「特養の職員はジャージを着ているが、介護を肉体労働だと勘違いしているのではないのか」などと、あちらこちらで特養はいかにサービスが悪く時代錯誤も甚だしいかという陰口を言っていたものです。そして、最後は「特養だから仕方がない」という結論で締めくくっていたことを覚えています。
たしかに、昔はこのような光景は事実としてありました。私も介護職員として駆け出しのころ、研修と称して特養に行きましたが、こういう光景はたしかに目の当たりにしています。そこで、マーガリンである介護付き有料老人ホームが台頭してきました。特養はひどいが介護付き有料老人ホームは民間企業が運営しているのでサービス業であると。特養と比べると、費用はかかりますが、よいサービスを受けたければ介護付き有料老人ホームに入るべきだ、という論です。
しかし、現在では、再び特養がその立場を盛り返してきていると私は感じています。理由は、特養で提供されるサービスの質がよくなってきたということと、介護付き有料老人ホームが提供するサービスの水準が伸び悩み、特養に対する優位性が薄れてきたからです。
さらに、特養が国の方針でユニットケア方式という高級路線を突き進み、逆に介護付き有料老人ホームが競合他社との生き残りをかけて低価格路線を強化している関係で、位置づけが逆転しかけていることもあげられます。安い特養、高い介護付きという概念が逆転して、料金が高く高級な特養と、安くてしょぼい介護付きという構図に変わりつつあることが、地方を中心にでき上がりつつあります。
要介護高齢者の支援を安定的に行うには、特養や介護付き有料老人ホームのような包括報酬で行う介護支援以外に方法はありません。そういう視点からも、特養や介護付き有料老人ホームは老人ホームの主役であるといえます。しかし、同じスキームの施設が2種類あるのは、入居者側にとってはわかりにくいものです。
私は、特養は社会のセーフティーネット、介護付き有料老人ホームは、要介護高齢者が快適に生活を送れる場所という棲み分けをするべきだと考えています。競合ではなく共存。競争ではなく協業。入居者にとって、どちらも必要。そのためには入居者の事情に基づき自由に選択できるようにしなければなりません。
小嶋 勝利
株式会社ASFON TRUST NETWORK 常務取締役
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