もし親を老人ホームに入居させるとして、まず第一歩として何を理解しておけばいいのでしょうか。老人ホームの裏の裏まで知り尽くす第一人者が、親を老人ホームに入れようと思った時に「知っておきたい選び方、探し方」を明らかにします。本連載は小嶋勝利著『親を老人ホームに入れようと思った時に読む本』(海竜社)から一部を抜粋、編集したものです。

コストの高い大都市にこだわる必要はない

老人ホームに支払う費用以外の出費はどうでしょうか? 医療費や紙オムツなどの衛生費に関する費用はだいたい変わりはありませんが、生活する上での物価は多少なりとも地方のほうが安いはずです。

 

小嶋勝利著『親を老人ホームに入れようと思った時に読む本』(海竜社)
小嶋勝利著『親を老人ホームに入れようと思った時に読む本』(海竜社)

ちなみに、医療水準は、ある意味、地方のほうが質が高い場合があると思います。私は仕事柄、多くの地方に出かけますが、地方の医療機関の立派な建物には驚かされます。ドクターヘリが常備してあったり、高度先進医療を受けることができたりと、都内の有名医療機関と比べても遜色のない病院を多く見かけます。

 

介護サービスの品質は変わらず、コストだけが安いということであれば、何も無理してコストの高い都会に高齢者がいる必要などありません。このような話をすると、多くの業界関係者の皆さんからは、国は「住み慣れた地域で最後まで生活できることがよい」と言っているじゃないか、とお叱りを受けることになりますが、私はこの考え方自体に同意をしていません。

 

多くの高齢者は地方出身者です。いわゆる「田舎」があります。生まれも育ちも東京という人であればいざ知らず、もともと青森で生まれた人が東京で所帯を持ち生活の基盤を築いているとしても、人生最後の数年間を生まれ故郷で締めくくるという終え方は、大いに成り立つと私は考えています。

 

当然、長年東京で生活をしてきている関係で、知り合い、知人は全員東京にしかいないとか、故郷には両親の墓はあるが、親戚縁者はもういないという人も多いと思います。しかし、何も私は、一人で地方で生活をすればよいと言っているのではありません。老人ホームへの入居を勧めているのです。老人ホームには多くの職員が配置されています。そしてその多くの職員は、あなたの故郷の後輩です。懐かしい知人の子供や孫が職員の中にいるかもわかりません。話をしていると、そのルーツが共通する職員もきっといることでしょう。

 

「住み慣れた地域で最期まで」。たしかに理想的なストーリーだとは思いますが、誰もが住み慣れた地域に対し、よい印象を持っているとは限りません。さらに、ひと昔前と比べると、自身が死んだ後、お墓に入ることが当たり前ではなくなっている昨今、自分の終焉の地を自由に決める高齢者も増えてくるのではないでしょうか。

 

そういう私も、実はお墓は要らないと考えています。死んだ後は海に散骨をしてもらい、その後はいなかったものとして、子供たちの負担になるようなことは極力避けたいと考えています。子供がいることが生きていた証、それだけで十分だと考えています。

 

そう考えると、何も長年生活の拠点にしてきた地域にこだわる必要はありません。交通網が整備され、さらにIT技術の進歩も著しい昨今、東京などのコストの高い大都市に、こだわる必要はないと思います。

 

小嶋 勝利
株式会社ASFON TRUST NETWORK 常務取締役

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