相続が起きると様々な手続きが生じます。「相続登記」もその一つ。しかし現行法上では特に期限がないことから、登記申請を後回しにする人が少なくないのが現状です。相続に関する手続きに「放置しても大丈夫なもの」はありません。相続登記を放っておいた場合にどのようなリスクが生じるのか、事例をあげて解説します。※本連載は、司法書士さえき事務所所長の佐伯知哉氏の書き下ろしです。

買取業者が姉に「共有状態の解消」を請求し…

さてC社ですが、Aさんとの不動産の共有状態を望んでいるわけではありません。当然この先の展開があるのです。

 

実は共有状態の不動産は、共有者の一人から「共有状態を解消してください」と請求することができるのです(民法256条1項)。

 

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<民法256条1項>

各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができる。

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共有状態の解消とはどのようなことかというと、たとえば不動産全体を売却して金銭で分配したり、共有者のうちの一人が他の共有者の持分を買い取って単独で取得したりするということです。共有者にはこういった権利が認められているのです。

 

C社はビジネスとして共有持分を買い取っているわけですから、当然、共有物の分割請求を行います。共有物の分割請求をされたAさんは、C社から持分を買い取るか、そのお金がないのであれば全体を売却するか、C社にAさんの共有持分を買い取ってもらうしか方法がなくなります。

 

AさんはC社から共有持分を買い取る資力がなかったので、自宅不動産に住むことができなくなってしまいました。

 

この事例ではAさんとBさんが不仲で遺産分割協議をすることができず、決してAさんが悪いということではないのですが、親名義の不動産に同居していた相続人がそこに住めなくなってしまうということが起こってしまいました。

 

いかがでしょうか。相続登記という特に期限のない手続きでも、放置していると相続人のうちの一人が勝手に相続登記を行って、自分自身の持分を他者に売却してしまうなどのトラブルが生じる可能性があるのです。

 

Aさんのように後で共有持分を取得した他者から買い取ることができないと、最悪の場合、住み続けていた自宅に住めなくなってしまようなことも起こり得ます。

 

自分たちは仲がよいから大丈夫と思うかもしれませんが、たとえ身内であっても油断は禁物です。状況が刻一刻と変化している世の中では、今は大丈夫でも数年後も安泰とは限りません。放置していて問題のないような手続きはないのです。

 

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