自分の財産を渡したくない相続人がいる…そういう人は決して少なくないはずです。しかし、相続人である以上は最低限の額を受け取る法的な権利があります。いくら効力の強い遺言書であっても「一円たりとも渡さない」という遺志の実現は極めて難しいのが実情です。そこで今回は「生命保険を活用した遺留分対策」をテーマに、特定の相続人にだけ財産を渡すことができる合法的な手段を解説。※本連載は、司法書士さえき事務所所長の佐伯知哉氏の書き下ろしによるものです。

長男の逆縁で「思いがけない相続人」が発覚

【事例】遺産は全部、お世話してくれた娘たちへ。「疎遠な孫」には渡したくない!

本件の相談者Xさんには、長女のAさん、二女のBさん、長男のCさんの子ども3人がいます。しかしXさんはCさんと疎遠で、もう何十年も顔を合わせていませんでした。

 

ある日、XさんのもとにCさんが亡くなったという連絡が入りました。連絡をしてきたのは、Cさんの一人息子・Dさん。このとき、Xさんは初めてCさんに子どもがいる事実を知りました。

 

DさんはCさんの唯一の相続人なので、もしXさんが死亡した場合には、DさんはCさんの「代襲相続人」となります。

 

Xさんは、日ごろ面倒を見てくれる娘二人(Aさん、Bさん)に遺産をすべて渡したいと考えています。たとえ孫であっても、今まで顔も見たことのなかったDさんには遺産を渡したくありません。Xさんの希望を叶えるには、どうすればよいのでしょうか。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
では、「Dさんに相続させない」という遺言を作成するのは…?(※写真はイメージです/PIXTA)

 

Xさんの悩みを解消するにあたって、真っ先に思いつくのが「遺言」ではないでしょうか。Xさんが遺言を書いて、AさんとBさんに全財産を相続させればいいと思いませんか。

 

特定の相続人に遺産を相続させないという旨を記した遺言でも効力はありますが、相続人には、それぞれ「遺留分」という最低限保障されている相続分があります(民法1028条)。

 

今回の事例で、たとえばXさんがAさんとBさんにすべての財産を相続させる旨の遺言を書いていたとしても、Cさんの子であるDさんは法定相続分の半分である、Xさんの遺産の6分の1をもらえる権利があります。DさんはAさんとBさんに対して自分が相続できる遺産の6分の1に相当する金銭を返還せよという請求をすることが可能なのです。これを遺留分侵害額請求といいます(民法1046条1項)。

 

でもXさんとしてはどうしてもAさんとBさんだけに遺産をのこしたいのです。何か方法はないのでしょうか。

 

<民法1028条>

兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合に相当する額を受ける。

一 直系尊属のみが相続人である場合被相続人の財産の三分の一

二 前号に掲げる場合以外の場合被相続人の財産の二分の一

 

<民法1046条1項>
遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。

Dさんに「遺留分を放棄させる」という選択肢

被相続人の生前に相続放棄をすることはできません。もし、被相続人が生きている間に相続人が相続分を放棄するような内容の契約書や念書を作成していたとしても、これは法律的には無効なものとなります。ですが、遺留分であれば被相続人が存命のうちに家庭裁判所の許可を得ることによって放棄することができます(民法1043条1項)。

 

<民法1043条1項>

相続の開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り、その効力を生ずる。

 

遺留分を放棄する場合は、相続放棄と違って相続人としての立場を失うことにはなりませんが、「あとで遺留分を侵害されても文句を言いません」という内容を、家庭裁判所に対して申し立てることになります。

 

今回の事例では、Xさんが全財産をAさんとBさんに相続させる旨の遺言を作成し、Dさんには管轄裁判所に遺留分放棄を申し立ててもらえれば、Xさんの悩みは解決します。

 

ですが、実際このような事例でDさんが応じてくれるようにはとても思えません。疎遠な親族に対してはあまり現実的ではない方法ということになります。

次ページ「疎遠の孫」に渡さなくて済む、現実的な解決策

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