相続が起きると様々な手続きが生じます。「相続登記」もその一つ。しかし現行法上では特に期限がないことから、登記申請を後回しにする人が少なくないのが現状です。相続に関する手続きに「放置しても大丈夫なもの」はありません。相続登記を放っておいた場合にどのようなリスクが生じるのか、事例をあげて解説します。※本連載は、司法書士さえき事務所所長の佐伯知哉氏の書き下ろしです。

Aさんが行うべきだった「遺産の保全処分」の手続き

では、今回のようなトラブルを避けるにはどうすればよかったのでしょうか。一番は、Xさんが遺言を残しておいてくれることなのですが、亡くなってしまった後はどうにもなりません。Aさんに何か手立てはあったのでしょうか。

 

Aさんには相続分をあらかじめ保全する方法が考えられます。家事事件手続法という法律では、遺産分割審判前の遺産の保全処分を定めています。遺産分割がまとまる前に勝手に遺産を処分等することをできなくするという裁判所上の手続きです。

 

ただし、遺産分割調停の申立てが前提として必要になるので、Bさんとの話し合いがまとまりそうになければ、早く裁判所上の手続きに移行する必要があります。

 

繰り返しますが、やはり被相続人であるXさんが遺言を残しておくことが、相続人の安心につながります。家族のことを思うのであれば、遺言書の作成を検討してください。

 

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<家事事件手続法105条1項>

本案の家事審判事件(家事審判事件に係る事項について家事調停の申立てがあった場合にあっては、その家事調停事件)が係属する家庭裁判所は、この法律の定めるところにより、仮差押え、仮処分、財産の管理者の選任その他の必要な保全処分を命ずる審判をすることができる。

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ただし、遺言があったとしても絶対安心ではありません。たとえ遺言でAさんに自宅不動産を相続させるような内容になっていても、遺言の内容に基づく登記を申請する前に、Bさんが事例と同様に先に登記をして、自己の持分を売却してしまった場合には、やはりAさんは自宅に住み続けることができなくなってしまうかもしれません。

 

先日の相続法の改正によって、遺言があったとしても、相続人が自己の法定相続分を売却等の処分した場合には、他の相続人は法定相続分を買い取った第三者に対して対抗できなくなってしまいました(民法899条の2第1項)。

 

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<第899条の2第1項>

相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第901条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。

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遺言があった場合でも、相続登記は放置せずに早くやることが重要です。相続人どうしで揉めているようであれば、遺言の有無に関わらずとにかく早く手続きをしましょう。スピード勝負にもなりますので、一度専門家に相談されることをおすすめします。

 

 

★佐伯知哉先生の解説動画はこちら! ↓

 

【動画/相続の共有持分を業者に買い取られてしまったら…どうなる?】

 

 

佐伯 知哉

司法書士さえき事務所 所長

 

 

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