近年、終活への関心の高まりから「遺言書」の作成を検討する人が増えています。遺言書は、故人の意思を実現し、相続争いを防ぐ有効な策ではありますが、従来の制度では作成の簡便性と遺志実現の確実性が両立できず、不便な点も多くありました。それを解決できるのが、2020年7月よりスタートした「自筆証書遺言書保管制度」です。より万全な相続対策となりうる本制度の活用法を解説。※本連載は、司法書士さえき事務所所長の佐伯知哉氏の書き下ろしによるものです。

「会社の跡継ぎは二男」父の遺言にショックを受けた兄

【事例】

会社の経営者であるAさんには、長男Bさんと二男Cさんがいます。Bさん、CさんはともにAさんの会社で働いていますが、弟Cさんは特に出来がよくて、社員からの人望も厚い人物です。Aさんとしては、ぜひCさんに会社を継いでほしいと考え、その旨を自筆で遺言書に記しました。そして亡くなったのが昨年のことです。

 

Aさんの葬儀の後、いち早く遺言書を発見したのは兄Bさんでした。会社の金庫から取り出し、さっそく読んだBさんはその内容に驚きました。Aさんは弟Cさんに会社の全株式を相続させ、会社を継がせるというのです。長男である自分が会社を継ぐと考えていたBさんはショックを受けて、遺言書を破棄してしまいました。

 

「相続争いを避けるため」の遺言書で、まさかの結果に

本件の相談者は、二男のCさんです。Cさんは遺言書の所在を知っていました。しかしいくら探しても見つからないので不審に思い、兄が先に見つけて処理してしまったのではないか…という考えに至りました。父から会社を継いでほしいと伝えられていたCさんは、父の意思と兄の思惑の相違にも気がついており、思い当たる節があったからです。
 

こんな遺言書は、なかったことに…
こんな遺言書は、なかったことに…

 

遺言書を破棄した場合、その破棄した人は相続人である資格を失います(民法891条5号)。

 

Cさんはこのことを伝えましたが、Bさんは遺言書を破棄したことを認めません。もちろんCさんは金庫に遺言書があることは知っていたので、Bさんが嘘をついていると確信していました。しかし、双方の主張の決着をつけるには裁判しかありません。

結局Cさんは、Bさんが遺言書を破棄したことを立証することができず、法定相続分に従って会社の株式を分けることになりました。しかし、このようなトラブルがあっては、二人が同じ会社でともに働き続けられるわけもなく、Cさんは別会社を立ち上げることになりました。

 

父Aさんとしては、将来の相続に備え、スムーズに事業が承継できるように、よかれと思って遺言書を作成したはずです。しかし、その内容により、相続人の一人が遺言書を破棄するという思いもよらないことが起きて、自分の意思を実現することができなくなったうえ、相続人の間にも深い溝を残す結果となりました。

 

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