
「親が認知症で要介護」という境遇の人は今後、確実に増加していくでしょう。そして、介護には大変、悲惨、重労働といった側面があることも事実です。しかし、介護は決して辛いだけのものではなく、自分の捉え方次第で面白くもできるという。「見つめて」「ひらめき」「楽しむ」介護の実践記録をお届けします。本連載は黒川玲子著『認知星人じーじ「楽しむ介護」実践日誌』(海竜社)から一部を抜粋、編集した原稿です。
認知症父「デイサービスには行かないから」
YAZAWAかいっ!
じーじは月曜日から土曜日、デイサービスに出勤(わが家では出勤と言っている)しているのだが、最近土曜日のデイサービスから帰ってくるや否や、般若のような表情で怒っていることが多くなった。
「オレは今度いつ、あそこに行くんだ! いいか、あそこのデイは、水道から氷水が出るんだ。おまけに、部屋の中は、満州より寒いんだ。このままでは、凍え死んでしまうぞ。そしてな、行くとすぐ荷物を取り上げられて、帰るまで返してくれないんだ。あそこは、シベリアの収容所だ!」

満州にいたことは事実だけど、シベリア収容所に入ったなんて聞いてないけどなあ、なんて事実関係を確認している場合じゃないほど、怒っている。
デイサービスでの様子はどうなのか、ケアマネジャーやスタッフに確認するも、さすがじーじは外ヅラ良夫君(外面がいい)なので、思い当たることはないとの回答。翌週、デイサービスから帰ってくるや否や、
「俺はもうデイサービスには行かないから、そこんとこヨロシク!」
「そこんとこヨロシク! って、YAZAWAかいっ!」
なんて笑っている場合じゃない。なんとしても、土曜日にデイサービスに行ってもらわないと、私はおちおち仕事をしていられない状況になってしまう。そこで、まずは、落ち着いてもらうために、じーじの安定剤であるビールを献上し、よくよく話を聞いてみたところ。
「あの、デイは、Pという、大阪が本社の会社だっていうのは本当か?」
「そうだよ」
「やっぱりそうか、あそこは昔から会社の体制に問題があるんだ。俺が若い頃、いろいろあって、あのPにはどれだけ嫌がらせをされたか知っているか。俺が昔Tという会社の仕事をしていることをどこかで知ったんだな。だから、水道から氷水が出るんだ」
ひえ~、じーじが行きたくない理由は、運営会社が大嫌いなP社だったからか! 結局、それ以降じーじは土曜日にはデイサービスに行かなくなったので、この事件は未解決のままなのである。