「親が認知症で要介護」という境遇の人は今後、確実に増加していくでしょう。そして、介護には大変、悲惨、重労働といった側面があることも事実です。しかし、介護は決して辛いだけのものではなく、自分の捉え方次第で面白くもできるという。「見つめて」「ひらめき」「楽しむ」介護の実践記録をお届けします。本連載は黒川玲子著『認知星人じーじ「楽しむ介護」実践日誌』(海竜社)から一部を抜粋、編集した原稿です。

「鱒寿司が来たな! 満鉄に送ってくれ!」

満鉄と鱒寿司とじーじ

 

几帳面なじーじは毎日日記をつけている。といっても、何時何分「大」、何時何分「小」とトイレに行った時間が記入してあるだけだが(笑)。そしてなぜか毎朝、新聞をホチキスで留めて、今日の日付を確認するために日付を赤で囲むのが日課である。なぜかここ数週間、日記帳にも新聞にも「鱒寿司」の文字が書いてある。

 

「鱒寿司、食べたいの? 買ってこようか?」
「いや、俺が食べるんじゃない」

 

毎朝、新聞をホチキスで留めて、日付を確認するために日付を赤で囲むのが日課だという。(※写真はイメージです/PIXTA)
毎朝、新聞をホチキスで留めて、日付を確認するために日付を赤で囲むのが日課だという。(※写真はイメージです/PIXTA)

 

よくよく話を聞いてみると、どうやら、誰かが送ってくれることになっているらしいが……。


 
「鱒寿司が来たな! 満鉄に送ってくれ!」
「これは、鱒寿司じゃないよ」
「明日、届くから、満鉄に送ってくれ」

 

何で満鉄? なんて聞こうものなら、認知星の怒りん坊星人に変身してしまうので、ここはひとまず「わかったよ!」と返事をしたものの、本当に鱒寿司が届いたらどうしよう……そこで思い切って聞いてみた。

 

「鱒寿司さあ、満鉄の誰宛てに送るの?」

「誰宛て? そんなもん、差出人の俺の名前を見れば、しかるべき人に届くように手配してあるから、そんな細かいことを心配するな。それより、鱒寿司が来ないことの方が問題だ。約束を破ると、国際問題に発展するからな」

 

な! なんと、鱒寿司を送らないと国際問題に発展するらしい。そりゃ~大ごとだ。

 

それから毎日、普段まったく気にしない(というか、耳が遠いので聞こえていない)玄関のチャイムの音に異常に反応し、「鱒寿司か、満鉄に送れ」を連発。鱒寿司でないことがわかると、「早く送らないと、本当に大変なことが起こるぞ」とご機嫌ナナメになる始末。

 

そして数日後、ついに鱒寿司がわが家に届いてしまった。さあ、どうやって満鉄に送ったことにするか思い悩むが……。

 

「鱒寿司来たよ」
「来たか! 食うぞ!」

 

と食べる気満々。満鉄に送るんじゃなかったんかい!

 

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認知星人じーじ「楽しむ介護」実践日誌

認知星人じーじ「楽しむ介護」実践日誌

黒川 玲子

海竜社

わけのわからない行動や言葉を発する前に必ず、じーっと一点を見据えていることを発見! その姿は、どこか遠い星と交信しているように見えた。その日以来私は、認知症の周辺症状が現れた時のじーじを 「認知症のスイッチが入っ…

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