少子高齢化により労働力不足が深刻化の一途を辿る今、「シニア活用」こそが人材不足を解消する最後の砦です。とはいえ、いま多くの企業が実践しているような安易な「定年後再雇用」は根本的な解決策になりません。ただモチベーションを失った「残念なシニア」を量産し、いずれは経営上の大問題と化すだけです。日本企業が直面している深刻な状況を、人員構成に着目して解説します。※本連載は、石黒太郎氏の著書『失敗しない定年延長』(光文社)より一部を抜粋・再編集したものです。

シニア予備軍の半数が「人材育成の対象外」として放置

日本企業における年齢別人員構成の特徴は、歪んだ形状の高齢化だけではありません。以前に比べ、昨今では40歳代・50歳代社員の非役職化が進んでいます。図表3をご覧ください。このグラフは、年齢層別の人員数を役職毎に分けて1992年と20年後の2012年で比較したものです。

 

出所:リクルートワークス研究所「Works Report2014 次世代シニア問題」
[図表3]年齢層別・役職別人員構成(大卒以上、従業員数1,000人以上) 出所:リクルートワークス研究所「Works Report 2014 次世代シニア問題」

 

40歳代から50歳代の棒グラフの構成を左右で比べるとどうでしょう。右の2012年では非役職の帯が、左の1992年よりもかなり長くなっていることが分かります。今や、40歳以上の約半数は、ポスト不足によって役職に就けず、ヒラ社員のままなのです。

 

このデータを人事部門の目線で読み解くと、1つの仮説が浮かび上がります。それは、シニア予備軍である中高年社員の半数程度が、長期間にわたって会社の人材育成施策の対象外になってしまっているという仮説です。なぜなら、多くの日本企業が導入している階層別研修の仕組みは、昇進・昇格して初めて受講できるものだからです。そのため、役職者に昇進していない社員は、人材育成の対象外として、定年退職まで長ければ20年以上も、企業から放置された状況にあると考えられます。

 

新卒採用を前提とした階層別研修は社員の底上げに資するものであり、日本企業の組織力向上にこれまで寄与してきました。しかし、階層別研修もまた、右肩上がりの経済成長・会社規模拡大を前提とした仕組みです。その前提が崩れ、社員の人員構成が以前とは大きく変容しているのであれば、今後の定年延長を前提に、階層別研修の見直し、ひいては人材育成のあり方の刷新に向けてメスを入れなければなりません。

自己学習もナシ…中高年社員は「成長しなくなる」事実

仮に多くの中高年社員が会社による人材育成の対象外だったとしても、社員本人が自ら学び、自己成長してくれていれば、大きな問題ではないでしょう。そこで、図表4をご覧ください。この折れ線グラフはリクルートワークス研究所による調査結果です。過去1年間に、自己学習(仕事に関わる知識や技術の向上のために自らの意思に基づく取り組み)とOJT(On-the-Job Trainingの略。職場での実践を通じた教育)、Off‐JT(Off-the-Job Trainingの略。職場を離れた教育)が行われたか、年齢別に実施比率が示されています。

 

出所:リクルートワークス研究所「Works Report 2018 どうすれば人は学ぶのか」
[図表4]学び行動の実施割合 出所:リクルートワークス研究所「Works Report 2018 どうすれば人は学ぶのか」

 

まず、OJTとOff‐JTについて状況を確認しましょう。いずれも年齢の上昇につれて実施比率が下がっていくことが見て取れます。これは中高年社員の多くが会社による人材育成の対象外になっているという仮説の一つの証左と言えるでしょう。

 

続いて自己学習について、40歳以上になると自己学習の実施比率は3割前後で推移しています。この調査における自己学習には単なる読書も含まれていますので、日本の中高年社員の約7割は、学習のための読書すらしていないということを意味しています。

 

つまり、日本企業の中高年社員の多くが会社による人材育成施策の対象外になっているだけでなく、社員自身も自己学習していない、という状況が窺い知れます。

 

この世代に自らのキャリアに対する危機意識が全くないとは言い切れませんが、具体的な行動に移している人は少ないと考えられます。完全にやる気を失って、会社へのぶら下がりを決め込んでいる社員も少なくありません。多くの日本人中高年は自らのキャリア形成を自律的に考えておらず、会社に依存しています。その結果、自ら学ぶ、という新入社員研修で教えるような姿勢を放棄しているのです。正直に申し上げて、日本企業のこれからの将来性に憂いを感じざるを得ない状況です。

 

人事部門に在籍していれば、仕事柄、自己学習にいそしむ同僚が数多く存在するかもしれません。しかし、一般的な職場の実態は、人事部門とは大きく異なる可能性が高いということを強く認識しておくべきです。

 

現在のシニア雇用を継続した場合、数年後には職場に残念なシニアが急増すると考えられます。それぞれの職場における社員の2~3割を残念なシニアが占める事態もあり得ます。そうなってしまったら、企業の経営戦略の実現はおろか、日々のオペレーションですら従来のようには進まなくなるでしょう。定年延長を機会とするシニア雇用の抜本的な見直しは、すぐそこにある危機への最優先事項と言えます。

 

 

石黒 太郎

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社

コンサルティング事業本部 組織人事戦略部長・プリンシパル

 

 

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失敗しない定年延長 「残念なシニア」をつくらないために

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石黒 太郎

光文社

シニア活用こそが、人材不足解消の最後の砦。 「定年延長」に失敗すれば、日本経済は必ず崩壊する…。 少子化の進展により、日本の生産年齢人口は急激に減少中。さらに、バブル期入社組の大量定年退職が秒読みに入ったこ…

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