「残念なシニア」の放置は、経営上の大問題と化す
前回の記事『定年延長で大量発生?…職場によくいる「残念なシニア」3類型』では、残念なシニアの分類・特徴と、残念なシニアを生み出す大きな理由が今の定年後再雇用の仕組みにあることを紹介しました(関連記事参照)。
ただし、この残念なシニアの問題は、読者の皆さんの会社ではまだ経営課題として認知すらされていない状況かもしれません。その理由の一つは、職場に占めるシニアの割合が低いことにあると想定されます。多くの会社では、全社員に占めるシニアの比率は数%といったところ。10人のメンバーで構成される職場の場合、シニアは1人いるかどうかという計算です。もしくは、シニアを特定の職場に集めている企業もあるかもしれません。
シニアの比率が今後も低い水準で推移すれば、残念なシニアを放置してもそれほど大きな問題にはならないのですが、そうはいかないのが多くの日本企業の実態です。
図表1は、三菱UFJ信託銀行株式会社と三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社が2019年に共同で実施した調査「人事・退職給付一体サーベイ(シニア活用編)」で、企業の年齢別人員構成のグラフを類型化したものです。縦軸が人員数、横軸が年齢です。それぞれのグラフを左に90度回転させれば、類型の名称の左側の形が現れます。例えば、2のひし形のグラフを左に90度回転させれば、ひし形の左側部分(<)が現れ、合わせ鏡のように左右反転させれば、ひし形(◇)が完成するといった具合です。
この類型に照らした場合、読者の皆さんの会社の年齢別人員構成はどの形に近いでしょうか。
図表2は、自社が図表1のどれに当てはまるか、日本企業354社が回答した結果の集計です。7つの類型の内、高年齢層の比率が高いのは、ひょうたん型・ワイングラス型・逆ピラミッド型の3つで、これら3つの合計が69.5%を占めており、約7割の日本企業は高年齢層の比率が高い状況にあると言えます。会社の人員規模や業態による大きな違いは見られないため、これは多くの日本企業に共通する傾向と言えるでしょう。
景気で「新卒採用数」を調整した結果、人員構成に異変
日本企業における年齢別人員構成の高齢化の理由は明白です。平成時代の30年間、新卒採用を以下の流れで、水道の蛇口を開け閉めするようにして進めてきたことの帰結です。
①1990年前後のバブル経済期の大量採用
②バブル崩壊後の急激な採用圧縮(就職氷河期)
③その後の採用拡大
④リーマンショック後の採用圧縮(就職氷河期)
⑤その後の採用拡大
戦後の高度経済成長期に定着した新卒採用は、本来、右肩上がりの経済成長・会社規模拡大を前提とした仕組みです。長期安定的な人材数の確保がその趣旨であり、好景気・不景気といった景況によって毎年の新卒採用数を大きく増減させるべきものではありません。また、不景気だからといって新卒採用数を半減させたとして、それが企業全体の労務費削減にどれだけの効果があるのでしょうか。そして、実際にその効果が出るのはいつになるのでしょうか。本来の趣旨に反し、平成時代の30年間、日本企業は新卒採用数を景気変動に対する調整弁のように使ってきました。
そういった①から⑤の流れの中で、新卒採用数をどの程度調整弁として使ったか、またその結果による人員数の歪みをキャリア採用でカバーする努力をしたかどうかで、各社の年齢別人員構成の形状が変わってきます。ただし、多くの会社に共通して言えるのが、①1990年前後のバブル経済期の大量採用の影響です。
1990年前後に新卒入社した大量の社員が今では50歳代に突入しています。この層が全社員数に占める割合は大きく、社員の3割以上が50歳代という企業も珍しくありません。昭和時代から続く日本企業では、社員の平均年齢が40歳代半ば、企業によっては40歳代後半にまで高齢化してしまっている傾向にあります。