日本の定年退職制度は「年齢差別」という事実
グローバル人事に携わったことがある読者であればピンとくると思いますが、定年延長がこれほどまでに社会問題になるのは日本くらいではないでしょうか。日本におけるシニア雇用の現状や定年延長に関して、欧米諸国の人事マネージャーと話をすると、皆一様に不思議そうな顔をします。シニアを雇用することがなぜそこまで問題視されるのか、という素朴な疑問を抱くようです。
筆者も世界中のすべての国々の人材マネジメントに精通している訳ではありませんが、欧米の先進国では、シニア雇用や定年延長はそこまで問題視されていません。社会全体の高齢化が日本ほど進んでいないというのも理由の一つかもしれませんが、大きな理由は別にあります。それは雇用差別に対する考え方が根本的に異なるからです。
具体的には、欧米の先進諸国では、人種・性別・年齢などによる属性差別のない雇用が徹底されています。特に米国においては、年齢差別が人種差別・性差別と並ぶ三大差別の一つとして扱われています。
日本人の場合、「定年退職」という言葉の響きから「山田課長、長い間お疲れ様でした!」という職場メンバー全員からのねぎらい&花束贈呈といったような、どことなくノスタルジックな場面が想起されるかもしれません。しかし、米国流に定年退職を解釈すると、定年退職=「実力に関係なく60歳になったら強制解雇する仕組み」ということになります。つまり、定年退職制度そのものが年齢差別として禁止されているのです。
定年延長、シニア雇用が問題化しない「雇用基準」
では、シニア雇用が問題視されない欧米諸国では、社員を何に基づいて雇用しているのでしょうか。
その主な基準となるのは「職務要件」です。企業は個々のポジションについて、職務遂行に必要な知識・能力・経験などを職務要件として明文化します。そして、この要件を満たす人材を雇用・登用し、職務の価値に応じた処遇で報います。
当然ながら、人種・性別・年齢や扶養家族の有無などは処遇に関係ありません。それらは職務遂行に必要な知識・能力・経験とは何の関係もないからです。いわゆる職務主義の人材マネジメントであり、昨今ではジョブ型雇用と呼ばれることが一般的です。
つまり、年齢に関係なく、ある職務について、その遂行が可能な人材を、職務に見合った処遇で雇用・登用するので、シニア雇用や定年延長が問題になりようがないのです。諸外国の人事マネージャーが、日本におけるシニア雇用の現状や定年延長に関して不思議そうな顔をするのはこのためです。
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