医療的処置は完了、病院の「退院してください」に直面
困らないと動けない。これが今の老人ホーム探しの実情
多くの人、というよりも大部分の人は、具体的に困った事態が起きて初めて「老人ホーム探し」に着手します。
正直言って、手遅れです。私のところにも、仕事柄、知人や友人を通して「失敗しない老人ホーム選びを伝授してほしい」というリクエストが数多くやってきます。そのとき、私はまず、「時間がありますか?」と尋ねます。多くの人は、この人はいったい何を言っているのだろうと怪訝な顔をします。時間とホーム選びの秘訣とどういう関係があるのだろうと。
多くの人の老人ホーム探しは、いざ土壇場になってから始まります。ここでは典型的な例を一つ記しておきたいと思います。
一人暮らしのAさんは90歳男性です。都内の戸建てのご自宅で生活しています。隣町に長女Bさん。そして、地方に転勤で行ってしまった長男のCさんがいます。
Aさんは元気な高齢者、介護業界で言うところの自立の高齢者です。寄る年波にはかないませんが、自分のことはすべて自分でやれます。近所に買い物に出たAさんは、いつも歩きなれているはずの神社の階段で転び、足の骨を折ってしまいました。
医師から「手術はそれほど難しいものではありませんが、年齢が年齢なので一応家族で決めてほしい」と言われ、Aさん、Bさん、Cさんとで話し合った結果、治る見込みがあるなら手術をしてほしいという結論になり、ただちに手術を行い、成功を収めました。3週間ぐらいで退院です。
しかし、1週間ぐらいが過ぎたころ、Aさんの言動が少しおかしくなっていきます。さらに医師より、「そろそろ歩けるようにトレーニングを開始しなさい」という指示がありましたが、Aさんはトレーニングを拒絶するようになります。そして3週間が経過した後、Bさんら家族は病院のソーシャルワーカーから呼び出され、次のようなことを宣告されます。「退院になりますが、今の状態では一人暮らしのAさんをご自宅に帰すのは難しいと判断しています。お二人のどちらかの家で当面の間、引き取ってもらうことは可能でしょうか」。
Aさん、Bさんはお互いに顔を見ながら「……」です。さらにソーシャルワーカーが続けます。「もし難しいということであれば、老人ホームに入居するという方法もあります。探してみてはどうでしょうか」。Aさん、Bさんは突然のことでまたもや「……」です。さらにソーシャルワーカーは続けます。「医療的な処置は完了し、主治医からは退院の許可が出ています。ついては来週のX曜日までに退院していただきたいのですが」。そしてまた二人は「……」です。