申し立てで重要なのは「やむを得ない事由」の有無
そこで、この申し立てを行うにあたっては、いかなる場合に「やむを得ない事由」があるといえるかという点が問題になるのです。
一般論では、離婚後も同じ性を名乗っている期間が長ければ長いほど、呼称秩序の維持という観点から、旧姓に戻ることは認められにくいともいえます。
他方で、その期間の長さだけで決めるのではなく、離婚時に、そのまま同じ性を名乗ることを選択した理由や、なぜ氏を変更したいのか、という必要性なども考慮して氏の変更を認めるべきである、という考え方もあります。この点について参考になるのが、東京高裁平成26年10月2日判決の事例です。
この裁判例は、妻が、離婚した後も子どもの姓が変わるのを避けるために婚氏を続称し、それから15年経ち、子供が大学を卒業して独立したので婚姻前の姓に戻りたいとして、家庭裁判所に氏の変更許可の申し立てをした、という事例です。
家庭裁判所は、一度申し立てを却下しましたが、高等裁判所は家庭裁判所の決定を覆して、戸籍法107条Ⅰ項の「やむを得ない事由」があるものと認めるのが相当である、として氏の変更を認めました。
その理由としては以下を述べています(以下妻をXとします。)
・Xは,離婚後15年以上,婚姻中の氏である「○」を称してきたのであるから,その氏は社会的に定着しているものと認められる。
・しかし,Xが,離婚に際して離婚の際に称していた氏である「○」の続称を選択したのは,当時9歳であった長男が学生であったためであることが認められるところ、長男は,平成24年3月に大学を卒業した
・Xは,婚姻前の氏である「△」姓の両親と同居し,その後,9年にわたり,両親とともに,△桶屋という屋号で近所付き合いをしてきた
・Xには,妹が2人いるが,いずれも婚姻しており,両親と同居しているXが,両親を継ぐものと認識されている
・長男は,Xが氏を「△」に変更することの許可を求めることについて同意していること
これらの理由から、東京高裁は、離婚後婚氏の続称が15年間続いていた事例において氏の変更を認めました。
氏の変更について、特に婚氏続称の期間が長い事例について、公表されている裁判例は少ないため、このような事例はとても参考になります。
※本記事は、北村亮典氏監修「相続・離婚法律相談」掲載の記事を転載・再作成したものです。
北村 亮典
こすぎ法律事務所 弁護士
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