「手術が好き」ただそれだけだった…。新人外科医が見た、壮絶な医療現場のリアル。※勤務医・月村易人氏の小説『孤独な子ドクター』(幻冬舎MC)より一部を抜粋し、連載していきます。

初出勤日。「新しい専攻医の先生かな」声の先には…

■頑張らなくちゃ

 

初出勤日の朝を迎えた。少し早めに目覚めた僕は、昨日のうちにコンビニで買っておいたパンを野菜ジュースで流し込みながら、テレビを眺める。新年度の始まりということで、テレビの中で話すアナウンサーもどこか気合いが入っているように見えた。

 

食事は終えたけど、家を出るにはまだ少し早い。早くその時がきて欲しいような、まだきて欲しくないような、相対する感情をかき消すように閑散としたワンルームを行ったり来たりした。荷物を持って家を出てエレベーターに乗ると、(いよいよ始まるんだな)という実感が湧いてきた。

 

1階まで降りる途中、スーツを着た若者が何人か乗り込んで来た。みんな硬い表情をしている。このマンションは新築だ。おそらくほとんどの人が今日が社会人としての仕事始めなのだろう。

 

病院に到着すると、守衛の中年男性に声をかけ、医局まで案内してもらう。数年前に建て替えられたというこの棟は15階まであり、ワンフロアも広い。慣れるまでには時間がかかりそうだ。

 

医局の座席は、ここからここは外科、ここからここは内科、というように科ごとにまとまって配置されていた。外科の医師の座席が集まっているところまで案内されると、まっさらな席があり、そこには山川医師と書いた紙が置かれている。ここが僕の席のようだ。両脇の机を見ると、外科の専門書がびっしりと並んでおり、机の上は書類で溢れ返っていた。

 

(みんな、忙しいんだろうな)

 

そんなことを思いながら自分の机に荷物を置いて、回転式の椅子に座って高さを微調整する。

 

「新しい専攻医の先生かな」

 

突然の声に背筋が伸びる。

 

「はい、そうです」

「外科の田所です。よろしくね」

「山川悠と申します。よろしくお願いします」

 

僕の隣の席は、田所先生という10年目の医師だった。とても爽やかで穏やかそうな先生だ。

 

「初めまして、今日からお世話になります専攻医1年目の東(あずま)です」

 

直後に背後から女性の声がする。振り返ると、僕と同じくスーツ姿でたくさんの荷物を抱えた女性が歩いて来た。

 

「おお、君が東さんか。聞いているよ。よろしくね」

 

確か消化器外科にもう1人赴任することになっていて、名前は東さんだった気がする。この子が同期になるのか。

 

なぜ田所先生は東さんを知っているのだろう。有名な子なのかもしれない。

 

「ところで、2人は初対面なの」

「はい」

「はい」

 

僕と東さんはほとんど同時に答えた。

 

「同期は貴重だから大切にしないといけないよ。協力して頑張ってね」

 

外科医は、3K(危険、きつい、汚い……)と言われ、なり手が少なくなってきている。だからこそ、外科医、しかも同じ消化器外科の同期は貴重なのだろう。

 

「よろしくね」

「うん、よろしく」

 

同期とは仲良くしたい。だけど、ライバル同士。こいつには負けられない。一瞬、そんなピリッとした空気が流れたような気がした。

 

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孤独な子ドクター

孤独な子ドクター

月村 易人

幻冬舎メディアコンサルティング

現役外科医が描く、医療奮闘記。 「手術が好き」ただそれだけだった…。山川悠は、研修期間を終えて東国病院に勤めはじめた1年目の外科医。不慣れな手術室で一人動けず立ち尽くしたり、患者さんに舐められないようコミュニ…

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