初期研修は小さな病院だった。そして赴任したのは…
僕がこの4月から赴任する東国(とうごく)病院は都内でも有数の大病院で、特に外科で名を馳せている。東国病院には外科医だけで20人以上も在籍している。初期研修を行った地元の石山病院には外科医は8人しかいなかった。
東国病院は最寄りの駅から徒歩5分のところにある病床数(ベッドの数)1000床を超える大病院である。周辺には高級スーパーや百貨店、有名私立小学校があり、見るからに階層の高い人たちが生活している。歩いているとベビーカーを押している若い女性をたくさん見かけるが、みんな表情に知性があり、どこか誇らしげだ。
田舎育ちの僕にとってこの街での新生活は、希望に満ちていた。これから僕は、大都会で暮らして、大病院に勤める。美人の奥さんをもらうところまで想像できた。
新居は病院から徒歩10分の場所にある新築のワンルームマンションで家賃は16万円。安くはない上にかなり狭いが、市街地にあり、なんといっても新築であることが気に入った。
「きれいなマンションね」
「街並みもきれいだな」
入居日には、両親が朝から引っ越しの手伝いに来てくれた。
「やっぱり新築はいいよね」僕はまだ何もない部屋を見渡しながら言った。
「ここからの見晴らしもいいぞ」父がベランダに出るなり言った。
マンションは13階建てで僕の部屋は9階だ。周囲には大きな建物もあるが、丘の上に建っているため見晴らしも良かった。
「こんなに都会で悠はうまく暮らしていけるのかしら」
「大丈夫。住めば都だから」
引っ越し業者が荷物を運んでくるのを待っている間、ゆったりとした時間が流れる。
「ふう、終わった」
引っ越しはあっという間に終わった。何しろ部屋が狭いことは分かっていたため、大きい荷物はベッドとテレビくらいで、そのほかの家具はほとんど持ってこなかった。
「よし、じゃあランチに行こうか」
希望に満ちた消化器外科医としての日々が始まる。ここで僕は一人前の外科医になるんだ。
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