不動産を運用して収益を上げ、地域への貢献をしていくことが、これからの医師に求められています。本連載では、医師という特権を活かし、医療と不動産を組み合わせることで生まれる「超高収益スキーム」を紹介していきます。*本連載は、2016年4月27日刊行の書籍『資産家ドクター、貧困ドクター』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

医療と不動産を絡めた事業展開

現物投資である不動産は、投資対象そのものに価値があり、株式のように紙くずになることはありません。また、巨大地震などの災害などに遭わない限り、物理的になくなってしまうことも、ほとんどないのです。それに、万が一災害によって大きな被害が出たとしても、保険に入っていれば資産のすべてを失うことはありません。

 

不動産の活用方法は無限大です。たとえば、医師である皆さんがこれから所有する不動産は、将来的に家賃収入を生むだけでなく、医師ならではの活用方法があります。それは医療と不動産を絡めた社会貢献です。

 

一般的に不動産のオーナーが事業展開を行う場合、業種としては不動産管理会社などの不動産関連業がほとんどです。しかし医師であれば、そのブランド力を活かしてほかにも実現できる事業展開があります。賃貸物件とクリニックの併設はもちろん、様々な形態の医療施設を開業することが可能だということです。

 

医師ならば、様々な事業展開が考えられる。 (画像はイメージです/PIXTA)
医師ならば、様々な事業展開が考えられる。
(画像はイメージです/PIXTA)

 

特養の入居待ち52万人超、高齢者住居は不足している

ニュースや新聞で報道されるように、昨今は高齢化が進む一方で高齢者向け住宅が不足しています。内閣府の「平成27年版高齢社会白書」によると、2013年の高齢者(65歳以上)のいる世帯は2242万世帯で、全世帯の44.7%を占めています。2003年では1727万世帯でしたから、10年間で約30%も増加しているのです。

 

なかでも高齢者単独世帯は573万世帯(高齢者のいる世帯の25.6%)、高齢者の夫婦のみの世帯は697万世帯(高齢者のいる世帯の31.1%)となっており、半数以上が高齢者だけで暮らしていることになります。

 

また、総務省の「平成25年住宅・土地統計調査」によると、高齢者のいる世帯のうち持ち家は82.7%ですが、持ち家のバリアフリー化は進んでいません。2009年以降に高齢者のために工事(将来の備えを含む)を行った世帯は全体で13.3%、高齢者のいる世帯だけを見ても20%しかありません。

 

「平成25年度介護保険事業状況報告」によれば、2013年の65歳以上の第1号被保険者数はおよそ3200万人で、そのうち要介護認定者はおよそ580万人。さらに、このうちの7割以上が自宅で介護を受けています。特別養護老人ホームの入居待ちが52万人超と言われていることからも、いかに施設が不足しているかが分かります。

 

療養型病院を退院した後の受け皿となる「サ高住」

しかし、日本は1000兆円を超える多額の財政赤字を抱えており、人口減によって税収の増加も望めないことから、高齢者のケアを病院から在宅へとシフトさせることを目標に掲げています。2011年の「高齢者住まい法」改正によって創設された「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」も、その一つです。

 

このサ高住は療養型病院を退院した後の受け皿としても有効なので、医師がオーナーとなるのは理想的といえるのではないでしょうか。サ高住は建物に対してだけでなく、高齢者の生活支援にも様々な優遇措置が受けられる施設です。一般的な賃貸住宅の収益のほとんどは「家賃」ですが、この住宅では4つの収益構造が実現します。具体的には「診療報酬」「介護報酬」「生活支援サービスの対価」です。

 

このうち介護報酬とは、サ高住の事業者が、要介護または要支援者にサービスを提供した場合、その対価として事業者に支払われる報酬です。この報酬は3年ごとに見直され、サービス事業者がサービスを提供した場合の対価は、利用者が1割、保険者(市町村)が9割の負担となります(2015年8月より一定以上の収入がある利用者は2割負担)。

 

2015年度に見直された介護報酬は次のようになっています。

 

身体介護が中心である場合

所要時間20分未満の場合:165単位

所要時間20分以上30分未満の場合:245単位

所要時間30分以上1時間未満の場合:388単位

所要時間1時間以上の場合:564単位に所要時間1時間から計算して所要時間30分を増ごとに80単位を加算した単位数

 

生活援助が中心である場合

所要時間20分以上45分未満の場合:183単位

所要時間45分以上の場合:225単位

通院等のための乗車又は降車の介助が中心である場合:97単位

*単価は「単位」で表し、1単位は約10円

 

サービスを提供される側からすると、数多くのサービスが整っているほうが快適で、提供する側からするとより多くのサービスを提供するほど対価が得やすくなるわけです。

 

住み慣れた自宅や地域で暮らし続けられるケアシステム

2012年、サ高住に係る介護保険法と老人福祉法の改正によって、より医師が経営すべきと考えられる状況になりました。この改正でもっとも注目すべき点が「地域包括ケアシステムの推進」です。

 

地域包括ケアシステムの推進によって、介護が必要になった高齢者が住み慣れた自宅や地域で暮らし続けられるように「医療・介護・介護予防・生活支援・住まい」の5つのサービスを一括的に受けられる支援体制の強化が図られることになりました。

 

厚生労働省では、団塊の世代が75歳以上となる2025年には後期高齢者(75歳以上)が約800万人、2042年には団塊ジュニア世代も65歳以上となり、高齢者数は約3900万人となると予測、その人口割合は増加し続けると推計しています。

 

このまま病院に長期入院する高齢者が増えれば、必要な治療を受けられない人が増えていく一方です。また、日常生活に支援や介護が必要な認知症高齢者も2010年の280万人から2025年には470万人に増加すると見られています。高齢者がたとえ認知症や慢性疾患となっても地域で暮らせる仕組み作りは日本にとって必要不可欠でしょう。

 

今後の課題は、「医療・介護・介護予防・生活支援・住まい」の5つのサービスを円滑に提供できる体制作りと医師や介護士など専門職とのスムーズな連携です。この課題がクリアされれば入院した高齢者が早く退院し、住み慣れた自宅で生活できるようになるはずです。

 

国は30分以内に必要なサービスが提供できる環境を目指していますが、スムーズな在宅介護を行うには今のところ高齢者向け住宅が不足しています。たとえ大病を患っている高齢者でも在宅で暮らせるような住宅が求められているのです。

サ高住の推進にも繋がるケアシステム

このような住宅では、利用者のニーズに合わせて適切なサービスを提供できること、さらに入院、退院、在宅医療といったように状況が変化しても利用者一人ひとりをよく理解したサービスが提供できることが重要です。

 

地域包括ケアシステムの「医療・介護・介護予防・生活支援・住まい」の5つのサービスとは次のようになります。

 

①医療との連携強化

②介護サービスの充実

③予防の推進

④見守り、配食、買い物などの生活支援サービス

⑤高齢者にとって快適な住まいの整備

 

これはすなわちサ高住の推進ともいえます。同時に、よりレベルの高いサービスが求められていくともいえます。

 

たとえば、24時間対応の定期巡回、随時対応サービスなどです。これは要介護高齢者の在宅生活を支援するため、昼夜を問わず訪問介護と訪問看護を連携しながら定期巡回訪問と随時の対応を行うものです。それには介護する側と看護する側、そして地域医療機関とのスムーズな連携が必須です。一般的には非常に難しいことに違いありませんが、ドクターがサ高住のオーナーとして指揮を執り、さらにデイサービスなどの介護施設を併設していれば実現可能ではないでしょうか。

医師への連絡体制等の整備が不可欠な「サ高住」

2012年の介護保険法の改正では、介護を行う人材とサービスの質の向上が厳しく求められるようになりました。

 

たとえば、介護福祉士や一定の教育を受けた現場経験のある介護職員などは、これまで医師法で医師と看護師以外はできなかった医療行為が行えるようになりました。具体的には次の医療行為になります。

 

●たんの吸引(口腔内、鼻腔内、気管カニューレ内部)

●経管栄養(胃ろう、腸ろう、経鼻経管栄養)

 

今まで介護職員によるたんの吸引などは、緊急措置として一定の要件の下で運用されてきましたが、将来にわたってより安全な提供が行えるよう、2012年に法制化されました。しかし、このような行為は高齢者の命にかかわります。許可される介護福祉士などには制限が設けられ、一定の教育を受けることが義務づけられています。

 

また厚生労働省は、サ高住などの施設では医療関係者との連携の下で次のような体制の構築を求めています。

 

●状態が急変した場合の医師等への連絡体制の整備等、緊急時に適切に対応できる体制を確保

●対象者の状況に応じ、医師の指示を踏まえた喀痰吸引等の実施内容等を記載した計画書の作成

●喀痰吸引等の実施状況を記載した報告書を作成し、医師に提出

●対象者の心身の状況に関する情報を共有する等、介護職員と医師、介護職員との連携の確保と適切な役割分担を構築

●喀痰吸引等の実施に際し、医師の文書による指示を受けること

●施設内連携体制の下、業務の手順等を記載した業務方法書の作成

●医療関係者を含む委員会の設置とその他の安全確保のための体制の確保(ヒヤリ・ハット事例の蓄積及び分析体制含む)

 

これを読むと、密接な医師と施設の連携がいかに求められているかが分かります。

サ高住の建設・改修には補助金制度がある

さらに国は、サ高住の建設・改修には補助金制度を設けており、平成27年度の補助率は次のようになっています。

 

<サ高住>

新築の場合:工事費の10分の1(上限100万円/戸)

改修の場合:工事費の3分の1(上限100万円/戸)

 

<高齢者生活支援施設(デイサービスや診療所など)>

合築・併設工事の場合:10分の1(上限1000万円/施設)

改修の場合:3分の1(上限1000万円/施設)

 

同様に平成27年度の税制面での優遇措置は以下の通りです。

 

●所得税・法人税:5年間割増償却40%(耐用年数35年未満28%)

●固定資産税:5年間2分の1以上、6分の5以下の範囲内において市町村が条例で定める割合を軽減

●不動産取得税(家屋):課税標準から1200万円控除/戸

●不動産取得税(土地):家屋の床面積の2倍に当たる土地面積相当分の価格等を減額

※適用期限は所得税・法人税が平成28年3月31日、固定資産税ならびに不動産取得税が平成29年3月31日となっている。

 

ほかにも国は、建設に対して住宅金融支援機構の長期固定金利の融資が利用できるなどの支援策でサ高住の設立をバックアップしています。

 

医療・健康サービス付き施設の価値を高められる

サ高住のほかにもシングルマザー向けシェアハウス、メディカルエステ、医食同源をアピールするヘルシーレストランなどドクターがオーナーであることが、そのままメリットになる施設は無数に考えられます。医師だから実現できるこうしたサービスは、不動産の持つ潜在的価値を最大化させることで周辺の競合物件との差別化が図れ、同時に社会貢献にもつながるはずです。

 

このような医療・健康サービス付きの施設へのニーズは、今後、急速に進む高齢化や核家族化によってますます増大していきます。まさに、時代が必要としているのです。また、サ高住のような介護保険事業への展開を考えるのであれば、医療法人の設立を検討すべきです。

 

個人クリニックでも、保険証が使える保険医療機関であれば「みなし介護保険事業者」として、居宅療養管理指導、訪問看護、訪問リハビリテーション、通所リハビリテーションなどを行うことができます(いずれも介護予防含む)。本格的な介護保険事業者である介護老人保健施設や訪問看護ステーション、デイサービスなどの指定事業者になるためには、法人格を持っていることが必要です。

医療法人の設立は節税対策としても有効

医療法人の設立は、税制上や将来子どもに事業を譲る際にも有利です。

 

個人の所得税・住民税を合わせた最高税率は55%ですが、資本金1億円超の法人の場合は23.9%です。ただし、資本金1億円以下の場合、年800万円以下の所得金額については19%とさらに低く設定されています。さらに、2017年3月31日までは15%に引き下げられています。

 

また、個人クリニックの場合は「給料」という概念がないため、収入を経費として計上することはできません。しかし、医療法人なら自身を理事長、家族を理事といった肩書きにして報酬を経費にすることができるうえに、車の購入費や接待交際費など、個人経営よりも認められる経費の幅も広がります。

 

つまり、法人化によって勤務医としての給与と家賃収入を損益通算ができなくなるものの、別の節税が可能になるということです。ただし勤務医、特に公的医療機関に勤めている場合は、法人の役員や理事になることが禁止されています。退職を希望しないのであれば、妻や親など生計を同一とする家族になってもらえばいいでしょう。

 

法人化は相続税対策にも有効です。医療法人としてのクリニックや病院は、経営者が代替わりしても相続税の課税対象とはなりません。相続税の税率は最高で55%(法定相続分に応ずる取得金額6億円超)です。10億円なら5億5000万円です。これは決して無視できない金額ですから、子どもの将来のためにも、ぜひ頭に入れておくべきです。

 

「不動産運用の開始=同時に法人設立」ではない

ここで一つ理解しておきたいのが、「不動産運用の開始=同時に法人設立」ではないということです。ドクターに限らず不動産運用をはじめると、すぐに法人化をしたがるケースが多々見受けられます。まるで法人化ありきのようです。

 

事業を立ち上げたならば一国一城の主。法人を設立し、「代表取締役」となりたい気持ちは十分理解できます。しかし、資産形成という意味では、すぐに法人化せずにタイミングを見定めるべきです。

 

その主な理由は、以下の2つになります。

 

①法人は融資を受けにくい

 

最初の物件購入の前に法人化をしてしまうと、法人としての実績がないため融資の審査が通りにくくなります。法人化してから2~3年は黒字決算にしないとローンを通すのは難しいでしょう。

 

②給与所得と損益通算できなくなる

 

法人化すると収益に対する税金が所得税ではなく、法人税となるため給与所得と損益通算できなくなります。

黒字経営になったときが法人化のタイミング

では、いつ法人化するのか。それは収益が黒字化してからです。

 

不動産運用というものは、最初は収支がマイナスになりがちです。物件の購入時には、不動産取得税や登記代、火災保険料、リフォーム代など様々な経費がかかるためです。しかし、これらの経費は5年後に資産10億円を実現するための先行投資です。決して無駄金ではありません。

 

多くの不動産運用は、はじめてから2年ほどはマイナス決算になるものです。この期間を過ぎて黒字になれば、給与所得と合算した節税をできなくなります。このときが法人化のタイミングです。

 

とはいえ、あくまでケース・バイ・ケースなので、法人化後の節税は事業パートナーまたは会計士、税理士とよく相談するべきです。

 

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本連載は、2016年4月27日刊行の書籍『資産家ドクター、貧困ドクター』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

資産家ドクター、貧困ドクター

資産家ドクター、貧困ドクター

大山 一也

幻冬舎メディアコンサルティング

いまや「医師=超富裕層」とは限らない時代。自分の資産は自分で守り、増やすことが当たり前になってきました。しかし、多忙な医師にはそんな時間を作ることさえ難しいのが実状です。 そこで本書は「手間をかけずに確実に儲か…

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