どうやって老人ホームを選んだらいいのか? それには入居者の生の声を聞くのが一番と、国内最大の老人ホーム紹介センターを経営する著者は断言します。そこで著者は、数々の入居者のエピソードを通して、ホームでの暮らしの悲喜こもごもを紹介。現在、国内最大の老人ホーム紹介センターを経営する著者が、実は知らない老人ホームの真実を明らかにします。本連載は小嶋勝利著『老人ホーム リアルな暮らし』(祥伝社新書)の抜粋原稿です。

母一人子一人。今あるのは母親のおかげ

帰り際、長男から「時間があるようでしたらお茶でも飲んでいきませんか」と誘われ、行きつけの喫茶店に全員で行きました。長男からあらためて、母親が世話になっていることに対する謝意が述べられ、入居者との歓談が始まります。たとえ、相手が有名会社の社長であっても、たくましい老人ホームの入居者らはまったく気後れしません。自分の子供と同じ扱いで、ずけずけと話をしていきます。話をしていると、入居者二人の長男が同じ大学の先輩後輩にあたることが判明します。

 

小嶋勝利著『老人ホーム リアルな暮らし』(祥伝社新書)
小嶋勝利著『老人ホーム リアルな暮らし』(祥伝社新書)

次第に打ち解けた長男に、介護職員が素朴な質問をします。

 

「なぜ、毎日、土日も変わらずYさんに面会に来るのですか?」。すると長男は次のような話を始めました。

 

「早くに父を亡くし、母一人子一人の生活でした。母は私立高校の教師をしながら、私を大学院まで出してくれました。大学院卒業後、大手建設会社で主に設計の仕事をしていましたが、ある仕事が転機になり、今の設計会社に移籍しました。今の私があるのは、すべて母のお陰。母の献身的な努力の上に私がいるのです。わたしも懸命に働き、やっと母に楽をさせられるようになった矢先に、母は病に倒れ、何年も寝たきりの生活をしています。私は母に何もしてあげることができませんでした。そして、今もこれからも、何もしてあげることができない。今は、経済的に多少の余裕ができましたが、寝たきりの母は、おいしいものを食べるわけでも、綺麗な洋服を着れるわけでも、広い家に住めるわけでもありません。何もいらない生活なのです。だからせめてもの私の罪滅ぼしです。毎日母の顔を見に行くと、自分と約束をしたのです。そして母にしてあげられなかったことを、他の入居者の皆さんにしてあげることで私は満足しているのです」

 

次の日も、Yさんの長男はいつもの時間にホームに来ると10分程度の滞在で会社に向かいます。多くの介護職員は、長男がホームに来る日がいつまでも続くように祈るばかりでした。

 

小嶋 勝利
株式会社ASFON TRUST NETWORK 常務取締役

 

【関連記事】

税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】

 

恐ろしい…銀行が「100万円を定期預金しませんか」と言うワケ

 

親が「総額3,000万円」を子・孫の口座にこっそり貯金…家族も知らないのに「税務署」には“バレる”ワケ【税理士が解説】

 

「儲かるなら自分がやれば?」と投資セミナーで質問すると

誰も書かなかった老人ホーム

誰も書かなかった老人ホーム

小嶋 勝利

祥伝社新書

老人ホームに入ったほうがいいのか? 入るとすればどのホームがいいのか? そもそも老人ホームは種類が多すぎてどういう区別なのかわからない。お金をかければかけただけのことはあるのか? 老人ホームに合う人と合わない人が…

老人ホーム リアルな暮らし

老人ホーム リアルな暮らし

小嶋 勝利

祥伝社新書

今や、老人ホームは金持ちが入る特別な存在でななく、誰もが入居する可能性の高い、社会資本です。どうやって老人ホームを選んだらいいのか?それには入居者の生の声を聞くのが一番と、国内最大の老人ホーム紹介センターを経営…

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録