認知症入居者が大嫌いな元経営者の入居者
■エピソード15
認知症は出て行け! 自立の入居者は叫んだ
Oさんは85歳の男性です。電気工事会社の元経営者でした。要支援1の認定を受けていますが、「自立」の高齢者です。なぜ要支援の認定を持っているかというと、過去の脳出血の後遺症で右半身に多少ではありますが麻痺が残り、歩行時には杖を使って歩く必要があるからです。つまり、彼の歩行時には“見守り”という介護支援を行なう必要があります。
さらに、元会社経営者であるOさんは、持ち前のリーダーシップを発揮し、自立入居者のまとめ役でもあります。彼の周りには、いつも決まって男性二人、女性三人の自立入居者の取り巻きがいます。暇さえあれば、食堂やホール、さらにはOさんの居室で、一日に何度も談笑をしています。特に、ホームに対し要望などがある場合は、いつも彼が五人を代表して申し出にきます。
ホーム内でOさんの嫌いなものは何か。それは、認知症で訳のわからないことばかり言っている入居者です。彼はこの認知症入居者を目の敵にしています。特に誰ということではなく、認知症入居者全員が嫌いということです。
ある日の昼食時、いつものように食堂で食事をしていると、認知症入居者Bさんが、いつものように訳のわからないことを言いながら職員の手を煩わせていました。「早く帰りたいよ!」「食べていいの?」「私も食べていいの。じゃあ食べよう」「お願いします」などなど。まさに支離滅裂です。
その時です。Oさんは手に持っていたコップの水をBさんに掛けてしまいました「うるさい。黙れ、ババア。ここから出ていけ」。そう言うと、隣りの人のコップも手に取ります。たまらず介護職員が間に入り、コップを取り上げます。Bさんは、頭から水をかぶり、ずぶぬれですが、相変わらず訳のわからないことを言っています。介護職員がBさんの車椅子を移動させ、Oさんから距離の離れたところまで誘導します。
Oさんは、しばらく仁王立ちをしていましたが、介護職員が促し、とりあえず席に座らせます。いつもの五人組も、この行為には少し引き気味です。同じく自立の入居者が、Oさんに対し「なんて大人げない人なの。かわいそうに。彼女だって、好きで認知症になったわけではないでしょ。そのぐらいわからないの?」と叱責しています。Oさんのこの行動で、せっかくの昼食が台無しです。