転勤族の長男一家はずっと地方の官舎住まい。長年にわたる両親の介護は、近居の妹2人の役割でした。相続の段になり「遺産分割は平等に」と主張する妹たちと「跡継ぎなのだから自分がもらうべき」という兄との間で衝突が発生。なんとか遺産分割協議が終了し、申告期限に間に合うも、長男と次女の間には修復不可能な溝ができてしまいました。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに解説します。
「自分は跡継ぎの長子長男なのだから…」
父親が亡くなったとき、遺言書はありませんでした。そのため、相続人である長男の桑原さん・長女・次女の3人で遺産分割協議をし、財産分与を決めることになりました。
2人の妹は、長男夫婦は財産確保のために暮らしもしない家を建て、介護の終わりが見えてから戻ってきたという認識のようです。しかし桑原さんは、そもそも桑原家の跡継ぎは自分であり、しかも長子の長男なのだから、平等な配分では納得できないと考えている様子です。
筆者が長女に話を聞いたところ、
「両親の看護や介護は、ほとんどすべて私と妹でやってきました。いくら長男だからとはいえ、最後に少しだけ参加した程度で、兄には寄与分はないと思います。本人は跡継ぎだといっていますが、父も遺言書を残していませんし、法定通り、財産は3等分にするべきではないでしょうか」
このように意見を主張しました。筆者は、長女の意見を基本路線として分割の話し合いを進めるよう、桑原さんに提案しました。
父親の土地の地形は奥に深く、道路側に桑原さんの家、真ん中に両親の家、いちばん奥に次女が暮らすアパートという順で、縦に並んでいます。相続人は3人なので、3つに分けられる地形ならいいのですが、この土地でそれはむずかしいため、土地は現在住んでいる長男と次女が相続し、別の場所に自宅がある長女は預金を相続する、という方向性で決まりました。
妹が求めた3mの幅員を、兄は「ダメだ」と突っぱね…
ところが、ここから簡単に進みません。兄対妹たちで、話し合いが紛糾することになります。
筆者の提案は、評価のバランスを考慮し、建物はいずれも老朽化して建て直す時期くることから、現在の位置を度外視して土地の分筆を行い、建て直すときに正式な取得どおりの利用をしていく、というものでした。敷地の手前は長男、奥は次女という現状の配置を優先しました。
次女は唯一の希望として、道路の幅員に3mほしいという条件を出しました。ところが桑原さんは「そんなに渡すことはできない、3mも必要なわけがない」と強く拒絶し、まったく話し合いになりません。
最終的に、「2.7mなら許可する、とにかくこれ以上は絶対譲れない」といい張り、結局、次女が折れて2.7mで分筆することとなりました。遺産分割協議や申告等は、なんとか期限内に終わりました。
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
京都府立大学女子短期大学卒。PHP研究所勤務後、1987年に不動産コンサルティング会社を創業。土地活用提案、賃貸管理業務を行う中で相続対策事業を開始。2001年に相続対策の専門会社として夢相続を分社。相続実務士の創始者として1万4400件の相続相談に対処。弁護士、税理士、司法書士、不動産鑑定士など相続に関わる専門家と提携し、感情面、経済面、収益面に配慮した「オーダーメード相続」を提案、サポートしている。
著書65冊累計58万部、TV・ラジオ出演127回、新聞・雑誌掲載810回、セミナー登壇578回を数える。著書に、『図解でわかる 相続発生後でも間に合う完全節税マニュアル 改訂新版』(幻冬舎メディアコンサルティング)、『図解90分でわかる!相続実務士が解決!財産を減らさない相続対策』(クロスメディア・パブリッシング)、『図解 身内が亡くなった後の手続きがすべてわかる本 2021年版 (別冊ESSE) 』(扶桑社)など多数。
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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