
いい老人ホームだと近所で評判だったのに、入居したら酷い目に遭った――。老人ホーム選びでは口コミがまるで頼りにならないのはなぜか。それは、そのホームに合うか合わないかは人によって全く違うから。複数の施設で介護の仕事をし、現在は日本最大級の老人ホーム紹介センター「みんかい」を運営する著者は、老人ホームのすべてを知る第一人者。その著者が、実は知らない老人ホームの真実を明らかにします。本連載は小嶋勝利著『誰も書かなかった老人ホーム』(祥伝社新書)の抜粋原稿です。
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ホームの食事はワタミの介護進出により向上
有料老人ホーム業界の食事に影響を与えた、「ワタミの介護」について触れておきたいと思います。
「ワタミの介護は有料老人ホームの食事の品質向上に貢献したホームである」。これが私の評価です。それまでの老人ホームの食事は、おおむね酷いものでした。私の勤務していた有料老人ホームでも、入居者やその家族から食事に対するクレームが来ない日はありませんでした。そのくらい、お粗末だったと自覚しています。

リスク管理という立場から「刺身は出さない」「餅も出さない」は当たり前でした。大勢で同時に食事をしなければならない事情から「麺類は出さない」も、当然でした。同じものを同じ企画で大量に提供しなければならないために冷凍食品を多用し、水分が飛んでパサパサだったり、逆にぐじゃぐじゃだったりと、品質が一定していませんでした。
「お願いだから、まともな食事を出してほしい」と、真剣に懇願されたこともありました。しかし、当時多くの有料老人ホームでは、すべて「仕方がないこと」だという認識でした。給食事業者に改善を申し入れても「対応します」というだけで、実際には何も改善しませんでした。心ある介護職員らは、自分たちではどうにもすることができない食事環境を少しでも改善したいと考え、「外食レク」を計画し、介護職員同士をやり繰りして入居者をホーム外の食事に連れ出すという奇策で対応していたものです。
その中で、ワタミの介護が本業の外食事業者の立場で参入したことで、飛躍的に食事の質が上がりました。食事の質が上がると、それにひきずられるように食事環境の質も上がります。それまで、プラスチック製だった器が陶器製に代わり、暖色系が多かった器が黒色系で高級感があるものに代わり、トレーの代わりにマットと箸置きがつくようになりました。有機野菜、無農薬野菜、黒毛和牛、天然マグロなど、今では普通になっている食事も、ワタミの介護の出現によるものだと、私は思っています。